shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年7月29日の社説

朝日新聞

『日ロ経済活動 甘い交渉が招いた帰結』

ロシアのミシュスチン首相が北方四島択捉島を訪れ、四島への投資を呼び込むため、外国企業など各種税金を大幅減免する案を示した。これまでロシアの法律の非適用や自国のみの協力体制を求めてきたが、それが退けられた形だ。前安倍政権で、四島での共同経済活動について合意しているが、実現のメドはたたない。成果を誇っていた合意は、根拠に欠ける楽観的な認識に過ぎなかったのではないか。菅政権は、前政権の失敗を認め、対ロ外交を立て直す責務がある。

『感染者の急増 社会で危機感の共有を』

新型コロナの感染者が全国で急拡大している。重症者の中心は働き盛りの世代に移り、デルタ株への置き換わりも進む。専門家や医療現場からはこれまで以上の危機感が示されている。しかし、国や自治体、国民の間でその危機感が共有されてるだろうか。政府・都は外出自粛を呼びかけながら、五輪という巨大イベントを強行。自分たちの振る舞いから、市民に言葉が届かなくなった現実を反省し、状況改善に当たる。そして社会全体で認識の共有を図ることが大切だ。

産経新聞

『コロナ感染急拡大 基本を見直し抑止を図れ』

新型コロナウイルス感染者数が急増している。今年初めの「第3波」のピークを越える危機的な状況だ。これまでのコロナ対策を基本から見直す必要がある。首都圏1都3県のコロナ対策を一本化し、軽症や無症状の感染者への対応についても自宅療養から宿泊療養を拡充する。お盆を控え、全道府県を対象に蔓延防止等重点措置を適用することを提言する。打つ手がないわけではない。

『「黒い雨」上告断念 救済の枠組み作り急げ』

国が「黒い雨」訴訟の上告を断念した。国は早急に判決の趣旨に沿った救済の枠組みを構築すべきだ。これまで国は、援護区域にいてがんなど特定の疾病になった場合のみ、特例的に被爆者と認定してきた。広島高裁の判決は、区域外で雨を浴びた全員に被爆者健康手帳の交付を認めた。区域外で雨を浴びた人は、今も約1万3千人いるとされる。国は区域拡大の再検証を進めるが、その作業に時間がかかるあまり、高齢となった人々の救済が間に合わなくなることだけは絶対に避けたい。

東京新聞

ユネスコ決議 「遺憾」解消する説明を』

長崎県端島炭鉱などの世界文化遺産明治日本の産業革命遺産」の説明を巡り、国連機関が不十分として「強い遺憾」を示した。徴用された朝鮮人労働者について、政府の「産業遺産情報センター」での説明に不備があるとされる。日本側は登録に当たり、一部施設で過酷な条件下での強制労働があったと理解できる措置を講じるとしていた。負の側面も含めて発信することで、むしろ遺産としての価値は高まるはずだ。情報センターの役割は産業遺産全体について次世代へ語り継ぐこと。歴史や法律論争の場にしてはならない。

『コロナ急拡大 対策を練り直さねば』

首都圏で新型コロナウイルスの感染が急拡大している。二十八日に開かれた厚生労働省の専門部会は「これまでに経験したことのない感染拡大」と指摘した。四度目の緊急事態宣言発令後、人出は減ったが、以前と比べ減り方は鈍い。首相の説明は危機感を欠き、五輪優先の姿勢が透けて見え、あまりに不誠実だ。ワクチン2回接種率は国民全体の3割にとどまる。重症化しやすいデルタ株に置き換わりが進む中、医療逼迫が心配だ。政府はより住民に近い自治体と危機感を共有すべきだ。

毎日新聞

『元立憲の本多議員辞職 不信広げた執行部の迷走』

性交同意年齢についての問題発言で、立憲民主党を離党した本多平直衆院議員が議員辞職した。現在の刑法では、性交すると罰せられる相手の年齢は13歳未満だが、党の非公開会合で16歳未満に引き上げるよう提案した外部講師に対し、「50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に、罰せられるのはおかしい」と発言したという。当初、党は口頭での厳重注意で済ませていた。執行部の対応は後手に回り、統治不全を露呈した。社会に受け入れられない議員の言動には、厳正に対処するのが政党の責任だ。

『五輪さなかの第5波 首相の楽観姿勢を危ぶむ』

緊急事態宣言下の東京都で新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。深刻なのは、宣言発令から2週間以上経つが、減少に転じていないことだ。医療現場は病床逼迫への危機感を強める。菅首相は、五輪について、「人流(人出)は減少しており、心配ない」と中止の可能性を排除した。首相が根拠の薄い楽観姿勢に留まり続けるようでは、国民の協力は得られない。医療崩壊を避けるため、気を緩めず感染対策をするよう、明確なメッセージを打ち出すべきだ。

読売新聞

カルテル容疑 電力自由化の趣旨に反する』

公正取引委員会が、九州電力とその販売子会社、関西電力中国電力に対し、独占禁止法違反容疑で立入検査した。電力小売りの自由化前に供給していた地区を超えて、顧客獲得しないよう取り決めていた疑いだ。電力自由化は、新規参入を促し、料金を押さえるのが狙いだ。競争激化で、大手電力会社の発電所や送電網への必要な投資が進まない現状だが、コスト削減などで収益力を上げて対処するのが本筋だ。健全な競争で自由化の恩恵を利用者に届ける努力を尽くすべきだ。

『コロナ急拡大 局面を見極め対策切り替えよ』

東京都で新型コロナウイルスの感染者数が過去最多を記録した。対策の一層の強化が必要だ。感染者の中心は、30歳代以下で、全体の7割を占める。緊張感が薄れ、デルタ株が広がるなか、拡大が危惧される。40〜50代の重症患者が増え、病床逼迫が懸念される。一方、ワクチン接種が進む65歳以上では感染者は全体の3%だ。何より、ワクチン接種を急ぐ必要がある。感染が拡大するごとに、宣言の延長や自粛要請の繰り返しでは解決にならない。メリハリの利いた対策が重要だ。

令和3年7月28日の社説

朝日新聞

世界自然遺産 保護の責務 国は自覚を』

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表(いりおもて)島」が世界自然遺産に登録されることとなった。観光政策との調整にこれまで以上に心を配る必要がある。あわせて、絶滅危惧種ヤンバルクイナなどが生息する沖縄島北部には、米軍基地を巡る問題がある。米軍の北部訓練場のうち16年に4千ヘクタールが返還され、そのうち、7割が推薦地域に含められた。その跡地からは空砲やドラム缶などが見つかっている。自然遺産の保護は国際社会への日本の責務だ。

『「黒い雨」救済 根本から改め対応急げ』

地理的な線引きや健康被害の有無に関わらず、「黒い雨」に遭った人は被爆者であるとの判決を広島高裁が下した。国は上告を断念し、判決が確定する。首相は、原告へ速やかに被爆者健康手帳を交付し、原告と同様の事情にある人を被爆者と認定・救済できるよう検討すると話した。気がかりなのは、首相が内部被爆は容認できないとした点と、厚労省有識者検討会が「科学的な合理性」にこだわり議論が行き詰まっている点だ。被爆者援護法が成立して四半世紀余り、今度こそ被爆者の思いに応えなければならない。

産経新聞

『卓球の金メダル お家芸復活を喜びたい』

卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼伊藤美誠は、日の丸が揚がり、君が代が流れると、表彰台でともに涙した。卓球は、かつて日本のお家芸だった。水谷は日の丸がてっぺんに揚がり、君が代を聞いているときはアスリートとして誇りに思った最高の瞬間だったと語った。お家芸の柔道では大野将平が連覇を果たした。初戦から「礼」の美しさと、優勝を決めても畳を下りるまで歯をみせず、浮かれるそぶりはなかった。国籍や勝敗を超え、彼らの奮起に拍手と賛辞を送りたい。

皇位有識者会議 男系男子復帰の具体化を』

皇位の継承策などを検討する政府の有識者会議が、旧宮家の男系男子を現皇族と養子縁組し皇籍に復帰させる案を出した。これまでの男系(父系)継承を尊重しながら皇統を守る現実的な策で、評価できる。会議では、女性皇族が結婚後も皇籍を保持する案も出た。会議では「女系天皇」論は少数で、男系男子の復帰の意見が多数だった。結婚後も女性皇族が皇籍に残る案は、女系継承へつながる恐れがあるなど、問題が多い。政府は、男系男子の皇籍復帰の具体化に力を注ぐべきだ。

東京新聞

『ワクチン証明書 接種しない人に配慮を』

新型コロナウイルスのワクチン接種を受けた人に発行する証明書の申請が始まった。国によっては、証明書があれば入国時の検査や隔離措置を免除するという。発行によって活動しやすくなる利点はあるものの、無接種者への差別につながらないか心配だ。国内での利用は、陰性証明と併用するなど、無接種者への配慮が必要である。接種後も基本的な感染対策は必要なのだから、政府はいま一度、感染対策の必要性を訴えるべきだ。

『レジ袋有料1年 使い捨て文化を捨てる』

プラ製レジ袋の有料化が義務付けられ1年が過ぎた。義務化は、海の生き物に害を与えるだけでなく、人体への影響も心配されるからだ。ただ、プラごみに占めるレジ袋の割合は2%に過ぎない。約半数を占める容器包装類の削減がより効果的だ。そのキーワードが「リユース(再利用)」と「リフィル(詰め替え)」である。スーパーや飲食店ではリフィルの新たな取り組みが始まった。「便利でおしゃれで安価」のライフスタイルが定着すれば、おのずとプラごみは減る。大事なのは「次の一手」だ。

毎日新聞

原発維持の基本計画 現実直視し発想の転換を』

経済産業省が「エネルギー基本計画」の改定案をまとめた。その中で、注目したいのが2030年度の各電源の比率見通しだ。再生可能エネルギーは3年前の22~24%から36~38%に、原発は20~22%と踏襲した。原発については非現実的と言える。これでは、30年度に老朽した原発も含め27基のを高稼働率で動かす必要がある。低コストとされた原発は、安全対策コストが嵩むとされ、再生エネよりも高い。コスト優位性が崩れた今こそ、思い切って発想を転換すべきだ。

『露首相の択捉島訪問 揺さぶりでは交渉動かぬ』

ロシアのミシュスチン首相が、北方領土択捉島を訪問した。日本側は政府要人の訪問を差し控えるよう申し入れてきたが、無視された格好だ。ミシュスチン首相は訪問の際、対日関係に関わる新たな提案を公表した。北方領土を「関税免除区域」とするというもの。ロシアの実効支配の強化につながる恐れがある。背景には日露共同経済活動の行き詰まりと、プーチン大統領の国内での支持率低下がある。揺さぶりでは交渉は進まないことを、ロシアは自覚すべきだ。

読売新聞

『「黒い雨」訴訟 上告見送りを救済の第一歩に』

広島の原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、政府は最高裁への上告を断念した。国はこれまで「援護対象区域」で黒い雨に遭い、がんと診断された場合に被爆者と認め、被爆者健康手帳を交付してきた。判決は、現区域の6倍の広さで黒い雨が降ったと認定した。国が進めている援護対象区域の再検証において、厳密な科学的根拠にこだわりすぎれば、救済はさらに遅れるだろう。原爆被害者は高齢となっており、早急に救済に当たらなくてはならない。

択捉島特区構想 露支配の既成事実化は許せぬ』

ロシアのミシュスチン首相が、日本固有の領土である択捉島を訪れた行為は、ロシアの支配を既成事実化しようとする意図が明白で、重大な主権侵害だ。訪問は、日露で検討している北方4島での共同経済活動の停滞と、9月の下院選を前に、極東の経済底上げをアピールするためだろう。ミシュスチン首相は、北方領土への投資に対する税負担を減免し、投資を促進すると発表した。菅首相は日本の領土を守るという確固とした戦略を示し、日本の立場を明確に伝える必要がある。

令和3年7月27日の社説

朝日新聞

産業革命遺産 約束守り、展示改めよ』

6年前に登録された「明治日本の産業革命遺産」について、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の委員会は、説明が不十分だと全会一致で採択した。審議の過程で、韓国が戦時下の労務動員などを理由に反対した経緯がある。当時、政府は犠牲者を記憶に留める適切な措置をとるとしていたが、東京都内の「産業遺産 情報センター」では、労働の強要はないという証言のみ紹介している。多くの歴史には陰と陽の両面があり、その史実全体を認めてこそ世界共有の財産になりうる。政府は、ユネスコとの約束を果たすべきだ。

『東電再建計画 原発頼みに未来はない』

東京電力ホールディングスが、「総合特別事業計画」の改訂版をまとめた。福島第一原発廃炉や賠償の費用の約7割を、東電が負担する計画は維持。ただ、収益改善の切り札に柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働を挙げている。さらに、10年間に3基の原発を順次再稼働させ、全体で年4500億円規模の純利益を見込む。再生可能エネルギーも積極的に展開するとしているが、再エネに投資を集中し目標を上回る成長の道を探るべきだ。実質の筆頭株主である政府の責任も重い。

産経新聞

『バイデン政権半年 対中包囲へ東南ア重視を』

発足から半年たったバイデン米政権は、中国との競争を外交・安全保障上の最重要課題と位置づけ、人権侵害や不公正な通商慣行などを指摘し、制裁などの厳しい措置を取ってきた。この点は評価したい。強力な対中包囲網構築のため、同盟・友邦諸国との連携は重要だ。カギを握るのが東南アジア諸国連合ASEAN)で、トランプ政権下ではこの地域を軽視し、その結果、経済支援などで中国の影響力が拡大した。遅れを取った対東南アジア外交でも巻き返しを図ってほしい。

『高温ガス炉再稼働 失われた10年を取り戻せ』

日本原子力研究開発機構の「高温工学試験研究炉(HTTR)」(茨城県大洗町)が今月末に再稼働する見通しだ。HTTRは「高温ガス炉」と呼ばれる次世代小型原発で、原理上、炉心溶融などの事故は起こらないとされる。今後の主力電源と目される再生可能エネルギーは、電力供給面で不安定だ。原発への不安が原発利用の障壁ならば、今後の退役原発の補完や新設に、安全性の高いHTTRを充てるのも一策。脱炭素社会に向け、政府は国産高温ガス炉の開発を急ぐべきだ。

東京新聞

臨時国会 五輪中も開き議論せよ』

野党が憲法五三条に基づき、臨時国会の招集を要求した。新型コロナウイルスや豪雨災害に対応するため、「国民の英知を結集する」必要があるとの理由からである。菅政権はただちに開会に応じるべきだ。次期衆議院選を控え、野党の攻勢を避けたいとの本音が垣間見える。感染対策や経済困窮者への支援など、国会の場で議論すべき案件は多数だ。国民の命と暮らしが危機に瀕している局面で、独善的な政治姿勢は許されない。

『黒い雨上告せず 直ちに救済の手続きを』

広島で原爆投下直後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、事実上被告である国が上告を断念した。判決に従い、原告に速やかに被爆者健康手帳を交付し、さらに原告以外の黒い雨の被害者への救済も検討すべきだ。広島高裁は、放射能による健康被害を否定できないことを立証すれば、被爆者として認定できると判断。国の上告断念は評価できるが、高齢となった原告の救済を急いでほしい。また、国が定めた降雨区域外の被害者の状況調査も、早急に着手すべきである。

毎日新聞

臨時国会応じぬ与党 こんな時こそ徹底審議を』

野党が臨時国会の早期招集を求めているが、政府・与党はこれを拒否する姿勢を続けている。東京都に4度目の緊急事態宣言が発令された後も、感染の収束が見通せず、ワクチン接種も混乱が続く。国会は、政策の現状や見通しを国民に説明する場でもある。衆院選をにらみ、菅政権はコロナ対策を中心とする補正予算を成立させ、それをテコに選挙を戦おうとしているようだ。補正予算が必要なら、直ちに編成し国会で審議すれば良い。コロナ禍の緊急時に国会を開かないのはご都合主義と言う他ない。

『「黒い雨」上告断念 幅広く被害救済する道を』

広島への原爆投下後に降った「黒い雨」による健康被害を巡り、原告全員を被爆者と認めた広島高裁の判決に、国は上告しない方針を固めた。本判決では、従来より幅広く被爆者認定すべきという司法判断が示された。援護対象区域外にも「黒い雨」が降ったとし、内部被曝も認め、「黒い雨に遭った人は被爆者」という結論だ。国の責任のもと被害保障をすることは当然である。また、政府はすべての被害者を救済する幅広い仕組みを速やかに作らなければならない。

読売新聞

『民間宇宙旅行 もう夢物語の時代ではない』

米国の新興企業が宇宙旅行事業に乗り出している。米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏は、自ら設立した会社の宇宙船で、高度100キロ超えを飛行し、その模様をネット配信した。宇宙旅行に関しては、各国の法令整備などがまだ追いついていない。日本では、ネット事業などで富を築いた実業家などが、ハイリスク事業に乗り出す例はまだ少ない。政府は計画的にベンチャー企業を後押しし、官民をあげて戦略的に支援することが重要だ。

『中国と南太平洋 島嶼国の拠点化に警戒が要る』

中国が経済援助を通じ、南太平洋の島嶼国への関与を強めている。キリバスは、中国の支援を受け、観光開発という名の下、滑走路の修復や港湾の改修などを進めているという。これらは軍事目的の利用も可能である。パプアニューギニアでは、中国資本の漁港建設計画があり、豪州は疑念を抱く。日米豪は英仏とも連携し、安保協力を強化することが重要だ。日本は、気候変動対策や人材育成などのきめ細かい支援を通じ、島嶼国との信頼関係を維持していきたい。

令和3年7月26日の社説

朝日新聞

『政治家の世襲 政党は制限の検討を』 ベテラン議員の引退表明が相次ぎ、親族に地盤を引き継ぐ世襲が目立つ。既得権益の温存につながり、政治の活力を損なう世襲の制限に、各党は取り組む必要がある。世襲であることと、政治家の資質は別問題だが、「地盤、看板(知名度)、カバン(資金)」を最初から持つ2世、3世が優遇されれば、多様な人材が政治に参加する足かせとなる。かつて、各政党が世襲禁止を打ち出したことがある。各政党はかつての議論を思い起こし、世襲制限を検討してほしい。

財政再建目標 虚構の議論を改めよ』

政府の中長期の財政試算によると、財政健全化の達成の可能性が、計算上は残ったように見える。しかし、現実的とは思えない。試算では25年まで年平均3.9%超の成長を想定している。そして、補正予算は加味していない。厳しい現実を覆い隠し、改革を怠る口実を与えるだけの試算と言えよう。メリハリある歳出と、増税検討も課題だろう。格差是正のために金融所得や高収益企業への課税強化をまず考えるべきだ。こうした議論に資する財政試算こそ、政府に求める。

産経新聞

『ワクチン証明書 渡航に限らず活用を図れ』

新型コロナウイルスワクチンの接種を証明する「ワクチンパスポート」の申請受付が開始される。一部の国・地域への渡航の際、提示すれば入国時の隔離期間が免除・緩和される。なぜ使途を渡航目的に限定するのか。多様な利用法を考えるべきだ。接種済み証明も同様だ。接種の強要や差別が生じる懸念が、国内運用に二の足を踏ませている主な理由だろう。有事対応でいたずらに公平性にこだわることこそ適切ではない。安心して活動できる環境を作ることが大切だ。

『日本勢の躍進 五輪開催がくれた感動だ』

日本選手の金メダル獲得が、東京五輪大会を盛り上げている。日本勢の活躍が必ずしも大会成功を意味しないが、明るい話題は社会の活力になる。われわれがテレビを通じ、喜びや感動を共有できたのは、大会開催という決断があったからだ。大会組織委員会にはコロナ対策を含む安全な運営に努めてほしい。スポーツを通じた人間の強さ、可能性を発信し続けたい。

東京新聞

『相模原事件5年 どう防げたか模索続く』

相模原市知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者の命が奪われた事件から五年になる。事件の五ヵ月前、衆院議長宛に「犯行声明」を渡し、それを受けて相模原市は、精神障害が原因で自傷他傷の可能性がある患者を強制入院させる「措置入院」を命じた。十二日後に措置入院は解除され、七月二十六日に凶行に至る。厚生労働省は事件後、「退院後の措置」に不備があったと総括した。事件後、退院した後でも行政、医療、福祉関係者、警察が総合的に支援することを義務付ける精神保健福祉法の改正案が参院で可決された。だが、結局廃案となる。警察の関与を除いた指針を厚労省は示したが、現場は運用に苦慮している。人権に配慮しつつ、継続支援や実態把握ができる仕組みを熟慮してほしい。全国的に、職員による入所者への虐待は右肩上がりに増加している。事件はどうすれば防げたのか。「共生社会」の実現を見据え、社会全体で重い課題に向き合い続けたい。

毎日新聞

『米国で広がる投票制限 民主主義の精神に反する』

民主主義の再生を訴えるバイデン大領領が就任し半年。現実は、民主主義への逆風が強まっている。期日前投票の期間短縮や、郵便投票の際の身分証明書の提示義務化など、投票権を制限する動きが各地で広がる。与党・民主党を支持する黒人が多く利用する方法への制限である。民主主義の根幹である国民主権の保証のため、あらゆる有権者に公平で、投票しやすい環境を整えるのが政治家の責務だ。国際社会に民主主義の優位性を訴えても、これでは響くはずもない。

『やまゆり園事件5年 隣人として暮らす社会に』

相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で多数の利用者が殺傷された事件から5年となる。裁判で被告は「意思疎通の取れない人は社会の迷惑」などと差別発言を繰り返した。施設建設が住民の反対で中止・変更を迫られるケースが相次ぐなど、社会の目は変わらない。障害者への虐待は2019年度に2202件。どんな環境で生活するか、障害者の意思の尊重が、国際的な流れだ。国や自治体の施策拡充が欠かせない。誰もが隣人として暮らせる社会にしていく必要がある。

読売新聞

『ビジネスと人権 供給網の点検を国が支援せよ』

中国新疆ウイグル自治区に供給網を持つ企業などの中に、 米国の輸出入の法律に違反する企業が存在する可能性を示す警告文を出した。少数民族へのジェノサイドや強制労働など、人権侵害を犯しているとの判断があったという。欧州でも、企業に人権侵害の調査と報告を義務付ける法整備の動きがある。世界を相手にする企業は、供給網の点検が必要だ。現在、中国側の反発で自治区の現地調査は困難という。政府は人権侵害反対の姿勢を示し、企業を支援すべきだ。

『五輪日本好発進 険しい道のりを示す選手の涙』

東京五輪で、柔道と競泳を中心にメダル獲得が相次いでいる。柔道はロンドン五輪では金メダルゼロ、リオ五輪では2個にとどまった。新型コロナウイルス感染症の影響で、五輪は1年延期された。その中で、選手たちは心身の管理に苦しんできた。選手の涙に、これまでの苦難と周囲の支援へ対する感謝の現れだろう。

令和3年7月25日の社説

朝日新聞

『アフガン混迷 米中ロの強調が必要だ』

アフガニスタンが、米軍撤退により、再び国際テロの温床となれば世界にとって悪夢だ。米国と中ロの対立は続いているが、危機感は共有しているはずである。米国の情報によると、反政府勢力のタリバーンの支配地域は4月の約2割から、5割以上に拡大している。中ロと中央アジア諸国で構成する上海協力機構は外相会議を開き、声明で「政治対話と和平プロセス」の促進を呼びかけた。両国とも、地域情勢の安定を真剣に望んでいる。アフガニスタンで戦争を始めた米国には、停戦を実現させ、秩序回復への道筋をつける責務がある。先日、アフガニスタン政府とタリバーンが和平会議を開いたが、物別れに終わった。周辺国を巻き込み、多角的な外交努力を強めるべきだ。バイデン政府は中国を最も重大な競争相手と呼び、ロシアとの関係も冷戦後、最悪とされる。だが、米国務省アフガニスタンを「共通の関心のもとで協力できる分野の一つ」と呼びかけている。その実行のときだ。

産経新聞

『五輪競技本格化 偉大な敗者に拍手を送る』

東京五輪の各種目の競技がはじまった。ショックだったのは、体操の内村航平が種目別の鉄棒で落下したことだ。内村は予選敗退が決まり、大会を去る。観戦の基本は「勝者には祝福を、敗者にはいたわりを」だ。内村のような偉大な敗者には盛大な拍手を送りたい。度重なる故障で満身創痍の32歳に、1年延期はどれだけ負担だったか。選手の事情をおかまいなしに、延期を主張した識者、政治家らに、どれだけ無神経な発言だったかを知ってほしい。

東京新聞

『週のはじめに考える 危機に乗るな、風に乗れ』

商いの世界では、危機に乗じるのは必ずしも不道徳に非ず、逆に才覚のうちだとなるかもしれませんが、コロナ禍においてこれを利用しようとする輩が少なくありません。マスクが払底する中、ネット競売でマスクを出品しひんしゅくを買った県議がいました。コロナ対策給付金詐欺には、経産官僚までが手を染めていました。ワクチン詐欺なども。政治にも似通った動きがないとは言えません。一つは改憲案。緊急事態に際し、内閣が私権を制限できる「緊急事態条項」を加えようとするものです。地球温暖化という危機にも同じようなことがいえます。政府が原発の六十年超の運転を認める法改正を検討しているというニュースが伝えられました。「新増設できないのなら超老朽原発を動かす」という、少し脅しめいてさえいます。再生可能エネルギーは猛烈な追い風を受けています。危機に乗じるより、風に乗れ。「脱炭素・脱原発」の未来へと向かって吹く強烈な追い風に-。

毎日新聞

東京五輪とコロナ対策 感染拡大防止を最優先に』

東京オリンピックの競技が続く中、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。五輪は200を超える国と地域から、約5万が集まる巨大イベントだ。政府や大会組織委員会は、感染拡大を防ぐことを最優先すべきだ。コロナ禍に苦しむ国民から「何のための五輪なのか」という疑問が噴き出したが、組織委や政府からの明確なメッセージは出されないままだ。外部と遮断し感染を防ぐ「バブル方式」は機能不全を起こしている。国内では「第5波」が広がっている。感染力が強いとされるデルタ株の増加も心配だ。医療体制の逼迫があれば、政府や組織委は競技の打ち切りを含め適切に対応しなければならない。その判断基準を示す必要がある。専門家からは自宅で家族らとテレビなどで観戦するよう呼びかける。大きな制約の下での大会だが、それでも最善を尽くそうとする選手たちには、エールを送りたい。

読売新聞

『EV充電設備 ガソリン車並みに使いやすく』

電気自動車(EV)の普及のために、充電設備の整備を急ぐことが不可欠だ。政府は成長戦略で、EV用急速充電設備を現在の4倍近くに当たる3万基に増やす方針を掲げた。菅内閣は、35年までに国内販売の全新車をハイブリット車(HV)やEVなどの「電動車」とする目標を立てている。長距離移動の車が多い高速道路のSAなど、ニーズが多い場所にまずは設置することだ。もっと短時間に充電できる技術開発や、災害時の緊急電源といった用途の多様化も望まれる。

『ワクチン証明書 政府は活用策を前向きに探れ』

政府は26日から、新型コロナウイルスワクチンの接種証明書の申請を受け付ける。当面、海外への渡航予定者を対象とする。経済界では、証明書を制限緩和につなげ、接種終了者の消費を喚起したい考えだ。接種できない人などには、陰性証明で代替するなど、不利益が生じないようにしてほしい。また、接種証明が不当な差別につながる行為は許されない。政府は課題を整理し活用の指針をまとめるべきだ。若者に接種を呼びかける取り組みを進めてほしい。

令和3年7月24日の社説

朝日新聞

『子宮移植 課題解決 透明性をもって』

生体からの子宮移植について、日本医学会の検討委員会が臨床研究の実施を認める報告書をまとめた。報告書では、子宮の提供にドナーの自由意思による同意が必須条件であるとした。親娘間では、断る意思を示せるか。提供を受ける側の負担も小さくない。免疫抑制剤が、子どもにどう影響するかも定かでない。国の指針には、生体移植はやむを得ない場合に例外的に実施されるとある。市民との議論の場を設け、探りながら合意形成に務める責務が、関係者にはある。

『日銀と機構 果たすべき役割 熟考を』

日本銀行が、気候変動対応に資する取り組みの投融資に、金利ゼロ%で資金供給する方針を打ち出した。中央銀行が担当すべき政策か、効果と副作用はどうか、よく検討すべきだ。本務である物価や金融システムの安定による国民経済の健全な発展と、気候変動対応の資金供給が常に整合的とは限らない。黒田東彦総裁は、本務を優先する姿勢だが、明確な整理が必要だ。本来は財政や政策金融に委ねるべきことに、中央銀行がどの程度関与すべきか議論を深めてほしい。

産経新聞

東京五輪開会式 世界を変える大会に育て 選手に静かな声援を送ろう』

東京オリンピックが1年の延期を経て原則無観客での開会となった。逆境の中でも、聖火を守らなくてはならない。閉会時には東京で開催されてよかったと、世界に思われたい。われわれ国民も、映像に小さくとも心をこめた静かな応援を送ろう。政府と自治体には、人流の抑制とワクチン接種の迅速化を徹底してほしい。産経新聞は、「開催への努力をあきらめるな」と書き続けた。その努力は、ウイルス封じ込めへの施策と同義と信じるからだ。厳しい環境下において、平和と団結の姿をスポーツの力で明示する。そうした世界を変える大会に育てば理想的だ。

東京新聞

『五輪開幕に考える 「民」はどこへ行った』

東京五輪の無観客映像を目にし、よみがえる四十年前の記憶があります。私ども中日新聞社の社説です。八十八年夏季五輪で韓国ソウルに敗れた「幻の名古屋五輪」への論評でした。当時、日本経済は低成長、財政難でした。五輪を誘致し地域振興を有利に運ぶ目論見でした。だが、「何のための五輪か」というまともな理念がなく、説明もない。「一事が万事これ式で『よらしむべし、知らしむべからず』ではたまらない」。得た教訓は「民主主義の原点を忘れた思い上がりの運動は結局成功しない」ということでした。ひとたび選挙で権力を手にすれば、あとは民意との信頼関係は遮断され、批判の声は国民が忘れるのを待たばいい。ここ何年も目の当たりにする「民」なき政治の不条理です。五輪優勢の失策も、五輪選手の活躍で、忘れてくれるとの読みがあるようです。いろいろあったこの東京五輪を奇貨とし、私たちは忘れぬことで、真の民主主義の底力を示し、ついには「封建時代の原理」をおわらせなければなりません。

毎日新聞

『コロナ下の東京五輪 大会の意義問い直す場に』

これほど開催を疑問視されたオリンピックは戦争時を除いてなかっただろう。選手たちは、開会式で歓声が響かない中で入場した。コロナは、ナショナリズムと商業主義で肥大化した五輪から「祝祭」という虚飾を剥ぎ取り、実像を浮き彫りにした。これまでに費やされた費用は関連費用を含めて、総額3兆円を超える。国内では、中止や再延期を求める意見が大勢を占めた時期があったが、IOCは開催ありきの姿勢を押し通し、反発を招いた。近代オリンピックの創始者であるフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵は、1952年の演説で、「商取引の場か、それとも神殿か! スポーツマンがそれを選ぶべきである。あなた方はふたつを望むことはできない」と語った。東京五輪の大会ビジョンは「多様性と調和」だ。組織委では人権意識を欠いた発言や所業で辞任や解任が続き、世界からは厳しい目が向かれた。今こそ原点に立ち返り、五輪の意義を問い直す機会にしたい。

読売新聞

『週休3日制 働き手が不利にならぬように』

選択的週休3日制を取り入れる企業が増えているという。政府は骨太の方針で、希望する従業員が週休3日で働ける制度導入を企業に促すことを盛り込んだ。労働者が働きやすい環境を整えねばならないのは確かだが、人件費抑制などの企業側の都合だけで導入を急ぐようなことがあってはならない。多様で柔軟な働き方の実現には、労使が知恵を出し合うことが不可欠だ。政府は、多角的な観点から、時代にあった働き方を研究してほしい。

東京五輪開幕 苦境でも輝く選手に声援を』

新型コロナウイルス流行の苦境下で、東京五輪が開幕した。開会式は、感染防止のため無観客となり、選手はマスクをし、間隔を空けて入場した。開会式を巡っては、演出担当者や演出責任者、音楽担当者が相次ぎ辞任、解任となった。大会組織委員会は、式典の意義をどう考え、どう人選したのか、検証と説明が必要だ。円滑な大会運営に注力してほしい。選手たちには、これまでの努力の成果を発揮してほしい。選手たちの活躍は、世界に彩りを与えてくれはずだ。

令和3年7月23日の社説

朝日新聞

『五輪きょう開会式 分断と不審、漂流する祭典』

東京五輪の開会式の日を迎えた。ただ、コロナ禍や直前の騒動で、まちには高揚感も祝祭気分もない。誘致当時の安倍首相は、復興五輪を掲げ、国際社会に原発事故の「アンダーコントロール」を宣言した。開催地決定後は、コンパクト五輪構想の破綻や経費の膨張、責任者の相次ぐ交代などが相次いだ。あるべき大会像を探らず、五輪ならばなんでも通るというおごりと、根拠なき楽観論の末が、「緊急事態宣言下での無観客開催」だ。肥大化・商業化が進む五輪から脱却し、新しい五輪を目指すも、国際オリンピック委員会IOC)や米国のテレビ局、スポンサーなどの複雑な思惑が絡み、試みは頓挫した。IOCの独善的な体質も浮き彫りになった。ナショナリズムの発露の場になりがちな五輪だが、日本の選手のみならず、外国人選手にも等しくエールを送りたい。躍動する選手の姿を通じスポーツの持つ力と人間の可能性を認識し、より良い世界をともに築く決意を新たにする。私たち一人ひとりが独自の視点を見いだすようにしたい。

産経新聞

東京五輪開幕 明日につながる熱戦望む 歴史的大会へ悪い流れを断て』

わが国は聖火を消すことなく、「五輪開催」という最後の一線を守り抜いた。日本のみならず、世界と五輪史にとって大きな意義がある。選手たちには、無観客だがテレビ桟敷から何十億もの人々が観戦し、その声援の後押しを信じて奮起の糧にしてほしい。残念なのは大会組織委員会の混乱ぶりだ。小山田圭吾氏の辞任、小林賢太郎氏の解任と、開幕直前に問題が相次いだ。悪い流れを断ち切らなくてはならない。コロナとの戦いも重要だ。大会の主役は、出場する約1万1千人の選手たちである。選手が力を発揮できる環境を整え、「日本開催でよかった」と帰ってもらえるか、大会の成否はそこにかかっている。日本の選手にも注文したい。選手たちは、より強い輝きのメダル、一つでも上の順位、自己記録の更新を最後まであきらめないでほしい。そして、明日のために戦ってもらいたい。こんな時期だからこそスポーツが必要だ。スポーツの底力を選手は見せてほしい。

東京新聞

東京五輪きょう開幕 対立と分断を憂える』

今夜、開会式を迎える東京五輪は史上初の無観客開催となりました。緊急事態宣言の真っただ中、観客はゼロでも、選手や大会関係者の感染が続出しています。憂えるのは大会が人々の間に対立や分断をもたらしたことです。インターネット上での批判を恐れ、発言を自粛するアスリート。大会ボランティアへの見知らぬ者からの罵声。混乱の最大の原因は、感染を収束できないまま、開催を強行した日本の政界、スポーツ界のリーダーらと国際オリンピック委員会IOC)にあります。その場限りの対応や結論の先送りが相次ぎ、統治機能の不全を思い知らされました。本来、五輪は対立や分断ではなく、連帯と共感を示す場です。大会には母国を逃れた難民選手団性的少数者LGBT)だと公表した選手も参加します。お互いの差異を認め合い、多様性を尊重する。共感し、連帯する。混乱する大会が、その機会であることを忘れたくはありません。

毎日新聞

『ワクチン接種の証明書 差別生まぬ慎重な議論を』

新型コロナウイルスワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」が導入される。一部の海外渡航先で入国後の隔離など、防衛措置が減免され、欧州連合(EU)などで導入が進む。ただ、ワクチン接種が全国民にいきわたるまではまだ時間がかかる。一部の自治体などでは、証明書の提示で、地域の店で使える割引券を配布する事例がある。公平性や公正さを欠いていないか検討すべきだ。接種の強制や未接種者への差別につながらないよう、慎重な議論が必要だ。

『開会式演出者の解任 五輪の理念踏みにじった』

開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が解任された。お笑い芸人時代、ナチス・ドイツホロコーストをネタに「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」という表現を使ったコントを、ビデオ収録していた。五輪憲章は根本原則の中で、人種や肌の色、宗教などのいかなる差別も認めていない。相次ぐ不祥事で開幕前から価値が損なわれた東京五輪を、世界中の視聴者がどう見るか。組織委はこの事態を招いた経緯を明らかにすべきだ。

読売新聞

東京五輪開幕へ コロナ禍に希望と力届けたい』

緊急事態宣言下、東京五輪が開幕する。困難に立ち向かう努力の大切さや尊さを世界に伝えたい。政府や東京都、大会組織委員会は、感染対策に万全を尽くし、円滑な運営に努め、大会を成功させなくてはならない。「コロナに打ち勝った証し」という目標の達成はおろか、今は感染拡大中だ。外国の選手や関係者が数万人規模で来日する中、感染対策の欠陥が露呈している。政府や組織委は対策の見直しを進め、選手らにも自覚ある行動を促す必要がある。日本オリンピック委員会山下泰裕会長は、選手たちに「感謝と誇りを感じつつ、思う存分、輝いてほしい」と語った。各地で計画していた交流行事は相次いで中止となり、思い描いていた五輪とは様相が変わったことは、残念というほかない。スポーツには人の心を動かす「力」がある。コロナ禍に苦しむ世界の人々に希望が届くといい。