shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月7日の社説

朝日新聞

イラン新政権 孤立さけ、緊張感を

中東のイランで、新政権が発足した。新大統領の前司法長官のライシ師は、宣誓式のあと、近隣の国々に対し「友好と同胞愛の手を差しのべる」と所信演説した。ライシ師は過去に政治犯の弾圧に関わった保守強硬派だ。イランの核開発をめぐる国際合意は、トランプ前米政権による離脱で機能不全に陥り、欧州の仲介で始まったバイデン政権との間接協議も中断している。イラン経済は、米国による経済制裁とコロナ禍で疲弊している。体制批判との見方もできる各地で起こっているデモでは、治安部隊の発砲で8人が死亡したと見られる。さらなる暴力は許されない。

五輪閉幕へ 問題放置せず検証急げ

東京五輪はあす、最終日を迎える。政府、東京都、大会組織委員会には、世論を二分して強行された大会について、これまで持ち上がった問題を整理し、対応を検証したうえで、結果を国民と世界に報告する義務がある。浮き彫りになったのは、責任の所在が明確でなく、不都合な話はやり過ごし、既成事実を重ねていく、今の日本政治そのものの姿である。大会でのコロナ対策も同様だ。具体的なデータを示し、課題と教訓を共有することが世界への務めだ。社説は4年前、政府、都、組織委には、文書管理を徹底し国民への説明責任を果たすよう求めた。改めて念を押したい。

産経新聞

五輪選手が亡命 ベラルーシ強権に圧力を

東京五輪女子陸上協議のベラルーシ代表、クリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手が人道査証(ビザ)を発給したポーランドに亡命した。ベラルーシのルカシェンコ大統領が強制帰国を指示した可能性があり、強権統治体制が背景にあるとみるべきだろう。ツィマノウスカヤ選手は出場経験のない1600メートルリレーへの出場登録を、本人の同意がないまま行われたことに、SNS上で不満を投稿していた。これが当局批判と捉えられた。独裁を許しているのはロシアのプーチン大統領の存在だ。日本は欧米諸国と歩調を合わせ、ルカシェンコ政権への圧力強化と、ロシアにも自制を求めていかねばならない。

蔓防措置の追加 全国への適用を決断せよ

新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大は全国各地に波及している。5日、政府は蔓延防止等重点措置に8県の追加適用を決定したが、デルタ株への置き換わりによる感染速度に、政府の意思決定が追いついていない。全国へ蔓延防止等重点措置を適用すべきだ。蔓延防止は市町村単位で対象地域を絞れる。全国一律の対策は必要ないが、生活圏が一体化している大都市圏では、対策を揃えるべきである。これまでのコロナ対策はことごとく後手に回ってきた。同じ誤りを繰り返してはならない。その責任は、政府と専門家の分科会にある。

東京新聞

園児熱中症死 悲しい教訓とせねば

福岡県中間市の保育園で、五歳の園児が送迎バスに9時間閉じ込められ、熱中症で死亡した。園長は、男児がバスを降りたものと思い込み、確認を怠ったという。園には安全マニュアルなどはなかった。通常は添乗員がいるべきだと専門家は指摘する。男児不在に、園が気づかなかったというのも不可解だ。基本的なルールが守られていなかったのではないか。園長の話は、慢性的なスタッフ不足があったこともうかがわせる。貴い命を預かる現場で、「質の低下」は見過ごせない。環境の改善を迅速に進める必要がある。

毎日新聞

産業遺産で「遺憾」決議 負の面認め誠実な対応を

世界文化遺産明治日本の産業革命遺産」を巡る日本政府の対応に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委員会が「強い遺憾」を表明した。長崎県端島炭坑で戦時中に働かされた朝鮮半島出身者の元徴用工に関する説明が、不十分だと批判された。日本政府は登録の際、この事実を説明すると約束していたが、関係法令や行政文書を紹介する程度にとどまっている。産業革命発祥の地である英国では、輝かしい成果と、それを底辺で支えた奴隷労働などの歴史もあわせて紹介されている。歴史には光と影がある。いずれにも向き合ってこそ、その重みを知ることができる。

歯止めかからぬ第5波 政治の責任放棄許されぬ

新型コロナウイルスの感染「第5波」が全国に広がっている。重症者も急増。政府がまず取り組むべきは、医療体制の拡充だ。病床の確保に全力を挙げるとともに、症状が改善した人の転院や退院がスムーズに進むよう医療機関の連携を図ることが欠かせない。宿泊・自宅療養の体制充実と感染対策の強化も重要だ。飲食店だけでなく、職場でも感染は広がっており、テレワークの徹底も必要となる。政府内には「今は打つ手がない」との悲観的な声も出ている。だが、国民の命や健康を危機にさらすことは許されず、手をこまねいているようでは、政治の責任放棄に等しい。

読売新聞

林業基本計画 収益力を高めて森を守りたい

林野庁は、中期的な林業政策の指針となる新たな「森林・林業基本計画」をまとめた。国産木材の供給量を2030年に19年実績比で4割近く増やす目標を掲げる。森林は二酸化炭素を吸収し、水源の涵養によって山崩れや洪水を防ぐ機能がある。国産材の需要は高まっており、林業には追い風だ。最大の課題は担い手不足である。人材の確保や効率化で、伐採から販売、再植林までを循環させ、先端技術を活用したコスト削減などを行うことが必要だ。自治体が、林業経営者を仲介するなど、経営規模の大規模化も重要だろう。

コロナ「第5波」 宿泊療養の体制を拡充せよ

新型コロナウイルスの感染「第5波」が到来している。爆発的な感染拡大にある重大な局面において、政府の対応は迷走。重症患者らに入院を限定する方針を示したものの、自治体や医療現場の混乱を招き、「中等症も原則入院」と軌道修正を余儀なくされた。やむを得ず自宅療養となった場合でも、希望すればすぐに宿泊療養施設に入れる体制整備が必要だ。各地の医師会は、率先して自宅療養者の対応にあたってほしい。政府は国民への自粛要請とワクチン接種に頼るばかりで、備えが不十分だった。自治体や医師会と緊密に情報を交換し、総力を挙げてもらいたい。