shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年7月27日の社説

朝日新聞

産業革命遺産 約束守り、展示改めよ』

6年前に登録された「明治日本の産業革命遺産」について、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の委員会は、説明が不十分だと全会一致で採択した。審議の過程で、韓国が戦時下の労務動員などを理由に反対した経緯がある。当時、政府は犠牲者を記憶に留める適切な措置をとるとしていたが、東京都内の「産業遺産 情報センター」では、労働の強要はないという証言のみ紹介している。多くの歴史には陰と陽の両面があり、その史実全体を認めてこそ世界共有の財産になりうる。政府は、ユネスコとの約束を果たすべきだ。

『東電再建計画 原発頼みに未来はない』

東京電力ホールディングスが、「総合特別事業計画」の改訂版をまとめた。福島第一原発廃炉や賠償の費用の約7割を、東電が負担する計画は維持。ただ、収益改善の切り札に柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働を挙げている。さらに、10年間に3基の原発を順次再稼働させ、全体で年4500億円規模の純利益を見込む。再生可能エネルギーも積極的に展開するとしているが、再エネに投資を集中し目標を上回る成長の道を探るべきだ。実質の筆頭株主である政府の責任も重い。

産経新聞

『バイデン政権半年 対中包囲へ東南ア重視を』

発足から半年たったバイデン米政権は、中国との競争を外交・安全保障上の最重要課題と位置づけ、人権侵害や不公正な通商慣行などを指摘し、制裁などの厳しい措置を取ってきた。この点は評価したい。強力な対中包囲網構築のため、同盟・友邦諸国との連携は重要だ。カギを握るのが東南アジア諸国連合ASEAN)で、トランプ政権下ではこの地域を軽視し、その結果、経済支援などで中国の影響力が拡大した。遅れを取った対東南アジア外交でも巻き返しを図ってほしい。

『高温ガス炉再稼働 失われた10年を取り戻せ』

日本原子力研究開発機構の「高温工学試験研究炉(HTTR)」(茨城県大洗町)が今月末に再稼働する見通しだ。HTTRは「高温ガス炉」と呼ばれる次世代小型原発で、原理上、炉心溶融などの事故は起こらないとされる。今後の主力電源と目される再生可能エネルギーは、電力供給面で不安定だ。原発への不安が原発利用の障壁ならば、今後の退役原発の補完や新設に、安全性の高いHTTRを充てるのも一策。脱炭素社会に向け、政府は国産高温ガス炉の開発を急ぐべきだ。

東京新聞

臨時国会 五輪中も開き議論せよ』

野党が憲法五三条に基づき、臨時国会の招集を要求した。新型コロナウイルスや豪雨災害に対応するため、「国民の英知を結集する」必要があるとの理由からである。菅政権はただちに開会に応じるべきだ。次期衆議院選を控え、野党の攻勢を避けたいとの本音が垣間見える。感染対策や経済困窮者への支援など、国会の場で議論すべき案件は多数だ。国民の命と暮らしが危機に瀕している局面で、独善的な政治姿勢は許されない。

『黒い雨上告せず 直ちに救済の手続きを』

広島で原爆投下直後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、事実上被告である国が上告を断念した。判決に従い、原告に速やかに被爆者健康手帳を交付し、さらに原告以外の黒い雨の被害者への救済も検討すべきだ。広島高裁は、放射能による健康被害を否定できないことを立証すれば、被爆者として認定できると判断。国の上告断念は評価できるが、高齢となった原告の救済を急いでほしい。また、国が定めた降雨区域外の被害者の状況調査も、早急に着手すべきである。

毎日新聞

臨時国会応じぬ与党 こんな時こそ徹底審議を』

野党が臨時国会の早期招集を求めているが、政府・与党はこれを拒否する姿勢を続けている。東京都に4度目の緊急事態宣言が発令された後も、感染の収束が見通せず、ワクチン接種も混乱が続く。国会は、政策の現状や見通しを国民に説明する場でもある。衆院選をにらみ、菅政権はコロナ対策を中心とする補正予算を成立させ、それをテコに選挙を戦おうとしているようだ。補正予算が必要なら、直ちに編成し国会で審議すれば良い。コロナ禍の緊急時に国会を開かないのはご都合主義と言う他ない。

『「黒い雨」上告断念 幅広く被害救済する道を』

広島への原爆投下後に降った「黒い雨」による健康被害を巡り、原告全員を被爆者と認めた広島高裁の判決に、国は上告しない方針を固めた。本判決では、従来より幅広く被爆者認定すべきという司法判断が示された。援護対象区域外にも「黒い雨」が降ったとし、内部被曝も認め、「黒い雨に遭った人は被爆者」という結論だ。国の責任のもと被害保障をすることは当然である。また、政府はすべての被害者を救済する幅広い仕組みを速やかに作らなければならない。

読売新聞

『民間宇宙旅行 もう夢物語の時代ではない』

米国の新興企業が宇宙旅行事業に乗り出している。米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏は、自ら設立した会社の宇宙船で、高度100キロ超えを飛行し、その模様をネット配信した。宇宙旅行に関しては、各国の法令整備などがまだ追いついていない。日本では、ネット事業などで富を築いた実業家などが、ハイリスク事業に乗り出す例はまだ少ない。政府は計画的にベンチャー企業を後押しし、官民をあげて戦略的に支援することが重要だ。

『中国と南太平洋 島嶼国の拠点化に警戒が要る』

中国が経済援助を通じ、南太平洋の島嶼国への関与を強めている。キリバスは、中国の支援を受け、観光開発という名の下、滑走路の修復や港湾の改修などを進めているという。これらは軍事目的の利用も可能である。パプアニューギニアでは、中国資本の漁港建設計画があり、豪州は疑念を抱く。日米豪は英仏とも連携し、安保協力を強化することが重要だ。日本は、気候変動対策や人材育成などのきめ細かい支援を通じ、島嶼国との信頼関係を維持していきたい。