shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月9日の社説

朝日新聞

東京五輪閉幕 混迷の祭典 再生めざす機に

東京五輪が終わった。新型コロナが世界で猛威をふるう中で開催された「平和の祭典」が社会に突きつけたものはなにか。朝日新聞の社説は5月、国民の健康を「賭け」の対象にすることは許せないこと、公平公正な競技の実施が揺らいでいることなどから、今夏の開催中止を菅首相に求めた。しかし、「賭け」は行われ、状況はより深刻になっている。感染爆発で、首都圏を中心に病床は逼迫し、医療崩壊寸前というべき事態に至った。首相や小池百合子都知事、そして国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長らは判断の誤りを認めない。これまでの大会日程から逆算した緊急事態宣言の決定など、五輪優先・五輪ありきの姿勢で施策をゆがめてきた。安倍前政権から続く数々のコロナ失政、そして五輪強行によって、社会には深い不信と分断が刻まれた。その修復は政治が取り組むべき最大の課題だ。財政負担などの様々なリスクは開催地に押し付け、IOCは損失をかぶらない一方的な開催契約など、その独善ぶりは世界周知のものとなった。一方、アスリートたちの健闘には、開催の是非を離れて心からの拍手を送りたい。強行開催を通じ浮かんだ課題に真摯に向き合い、抜本改革につなげる。難しい道のりだが、それを実現させることが東京大会の真のレガシーとなる。

産経新聞

東京五輪閉幕 すべての選手が真の勝者だ 聖火守れたことを誇りたい

確かなことは、東京五輪を開催したからこそ、感動や興奮を分かち合えたということだ。無観客を強いられたが、日本は最後まで聖火を守り抜き、大きな足跡を歴史に刻んだ。その事実を誇りとしたい。代表選手の置かれた厳しい環境について、為末大氏は「マラソンでいえば、30キロまで来ながらスタート地点に戻されるようなもの」と語った。今大会から採用された、「都市型スポーツ」は新しい景色を見せてくれた。スケートボード女子パークで、金メダル最有力といわれた岡本碧優が逆転をかけた大技に失敗した際、ライバルたちが駆け寄り、抱擁の輪と肩車で敗者を称えた。彼女たちが表現したのは、他者の痛みへの共感、挑戦する勇気への賛美、心の深い部分で結ばれた戦友との連帯だろう。無観客の中、大会に魂を吹き込んだのは選手たちであり、運営に携わったすべての大会関係者だ。熱戦に心を動かされた経験を、余すことなく後世に語り継がなければならない。

東京新聞

東京五輪が閉会 大会から学ぶべきこと

五十七年ぶりの日本での夏季の東京五輪が閉会した。選手やコーチ、運営に尽力した関係者の努力はたたえたいが、招致の在り方から感染拡大の中での大会開催など、教訓は多い。選手らは、感染すれば排除され、観光で外出すれば指弾される。これでも、今日本で、開催する意味が本当にあったのか、との思いを抱くのは当然だろう。二〇一三年の招致当時、東日本大震災からの「復興五輪」をうたった。しかし、感染拡大とともに「人類がウイルスに打ち勝った証しとなる大会」などと簡単に変転した。「コンパクト五輪」の構想も、マラソンなどが札幌に移転するなど、会場は拡散。大会経費は、当初の倍以上で一兆六千億円以上に膨れ上がっている。IOCの組織は肥大化し、商業化も過度に進む。硬直的で、国家主権をも顧みない独善的な体質にもっと早く気づき、学ぶべきだった。IOCと歩調を合わせて五輪と感染拡大との関係を否定し続ける菅義偉首相をはじめ日本政府の責任は、特に重い。平和の希求や人間の尊厳など五輪の理念は、今後も最大限尊重されるべきだ。ただし、IOCや日本政府が、それらを実践するにふさわしい存在ではないことも浮き彫りになった。そのことに気付けたことがせめてもの救いと言いたいが、それにしても私たち日本国民は、巨額の代償を支払うことになったが…。

毎日新聞

東京五輪が閉幕 古い体質を改める契機に

新型コロナウイルス下での東京オリンピックが閉幕した。原則無観客だったが、マラソンなど公道での競技には、五輪の雰囲気を味わおうと人が詰めかけた。選手村では行動が制限され、選手にとっては「おもてなし」とは程遠い不自由な環境だったろう。1年延期でこの時期の開催が適切だったかは、閉幕後も問われ続ける。期間中、多様な価値観を受け入れる社会を求め、選手たちが行動する姿が目立った。選手たちは「五輪の精神」を身をもって示した。一方、五輪を運営する側はひずみを露呈させた。IOCはコロナ下での開催を強行した。ビジネス優先で、選手の健康や国民の安全が軽視された点は否めない。開催都市との契約は「不平等条約」とも呼ばれ、中止の決定権はIOCが持ち、賠償責任は一切負わないと記されている。政府や東京都も開催ありきの姿勢を貫いた。そして、大会組織委員会森喜朗前会長の女性蔑視発言や開会式演出担当者の過去の言動など、差別的な体質が明らかとなった。古い体質を改めなければ、五輪は新たな時代に踏み出せない。憲章の理念を実現しようとした選手たちの声に耳を傾けることが、その一歩となるはずだ。

読売新聞

東京五輪閉幕 輝き放った選手を称えたい

新型コロナウイルスの流行の中、困難を乗り越えて開催された東京五輪が幕を閉じた。異例の大会は、長く語り継がれることだろう。東京都内の新規感染者数の急増で、一部に中止を求める声が上がった。選手たちが見せた力と技は多くの感動を与え、厳しい中での開催は意義が大きかったと言える。選手たちは先行き不透明の中で練習を続け、大会中は感染対策のため、行動制限を課せられた。全力を尽くした選手たちを称えたい。日本選手団は金27など、計58個のメダルを獲得した。政府は、誘致が決まった2013年頃から、選手の強化費を増額しメダル獲得が期待できる有望競技に重点配分してきた。こうした対策が実を結んだと言えよう。今大会は、「多様性と調和」を大きな理念の一つに掲げた。「難民選手団」や、性的少数者LGBT)を公表した選手も参加している。多様性を認め合う社会へ変わる契機にしたい。五輪が抱える課題も浮き彫りになった。大会延期や無観客によるチケット収入の補填は、ほとんど東京都や国が負うことになる。IOCに比べ、開催都市のリスクは大きい。大会組織委員会では、開会式演出担当者らが次々に解任に追い込まれた。組織委員会は、今回の課題を記録に残し、今後の五輪改革につなげるよう、IOCに提案することが必要だ。