shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月10日の社説

朝日新聞

皇族数の確保 国民の理解が欠かせぬ

皇位継承のあり方を議論している政府の有識者会議が方向性をまとめた。女性・女系天皇を認めるか否かの見解は示さず、皇族数の確保を喫緊の課題と位置づけている。旧宮家の男系男子を法律で直接皇族とする案や旧宮家の養子縁組の案には課題がある。これらの案には、皇位は未来永劫、男系男子で継承しなければならないという考えがある。民主党政権が2012年秋、女性宮家構想を打ち出したが、安倍・菅政権は議論から逃げ続け、皇室の危機を一層深刻化させた。政府、国会は主権者国民の理解と指示なしに象徴天皇制は存立し得ないことを認識し、この問題に望むべきだ。

原爆と菅首相 核禁条約を無視するな

菅首相が、就任後初となる、広島、長崎での平和式典にのぞんだ。あらゆる核兵器を違法とする核兵器禁止条約へ全く触れることはなかった。式典での平和宣言で、広島市松井一実市町は条約への参加を再び求め、長崎市の田上富久市町も条約を「育てる」道を探るよう訴えた。来年の締約国会議の場に、日本政府の姿がないことが発する「負のメッセージ」の大きさは計り知れない。菅首相は、挨拶文のうち、核廃絶への被爆国としての役割に触れた最も重要な部分を読み飛ばした。被爆国のトップに立つ者としての認識や思いが疑われていることを、首相は自覚すべきだ。

産経新聞

電源コスト試算 混乱を招く公表は問題だ

経済産業省が2030年時点の電源別発電コストの試算をまとめた。今年7月の試算では、事業用太陽光が原子力より安いとしていたが、今回はの試算では太陽光が18.9円と最も高く、陸上風力が18.5円、原子力が14.4円という。事業用太陽光発電は、自然現象に発電が左右され、その際火力発電で調節する。今回は、そのコストを見込んだ。政府は温室効果ガス排出削減のため、太陽光の大量導入を計画している。実態に合わせた正確な試算は欠かせない。公表手法も問題だ。再生エネの導入費用を分かりやすく示し、多様な電源を組み合わせてコスト削減を図る工夫が必要だ。

中国の記者いじめ 信頼を失う愚行をやめよ

中国河南省の豪雨災害を取材した、米国とドイツの記者を現地住民が取り囲み、殺害の脅しを含む嫌がらせがあったとして、米政府や中国外国人記者クラブ(FCCC)が懸念を示す声明を出した。中国政府は、中国批判として外国メディアを国営放送などで強く非難し、「ナショナリズムの扇動」を繰り返していることが背景にある。報道の自由や記者の安全を損なう中国の愚行は看過できない。災害報道では被害規模を伝えることが重要で、国内外からの適切な支援が届くきっかけにもなる。外国メディアへの圧迫は、自国の信頼を失墜させる行為だと、中国政府は悟るべきだ。

東京新聞

五輪選手中傷 言葉の暴力許されない

東京五輪では会員交流サイト(SNS)による選手らへの中傷が目に余った。言論の自由を守ることは必要だが、人格をおとしめるような攻撃は行き過ぎだ。選手らを精神面で守る手立てを考えたい。開催反対派も多い中、議論を尽くさず五輪開催に踏み切ったことに複雑な思いを抱く人もいるだろうが、その思いは主催者の国際オリンピック委員会IOC)や日本政府、東京都、大会組織委員会である。民主主義社会で言論の自由の死守は大前提だ。権力による過度な介入に口実に与えないためにも、私たち自身、言葉の暴力を許さない決意で臨みたい。

皇位継承策 議論の作送りをせずに

皇位継承について議論する政府の有識者会議が、女性宮家案か、旧宮家皇籍復帰案の二案を盛り込んだ中間報告案をまとめた。女性宮家とは、皇族女子が結婚しても皇室にとどまる案、皇籍復帰とは、戦後に皇籍を離れた旧宮家の男系男子が皇族に復帰する案だ。女性・女系天皇案など、皇位継承権の拡大は「次のステップとして考える課題」とした。安倍政権になってから女性・女系天皇案が白紙に戻った。男系男子主義に固執する保守派への配慮だろう。二〇一七年の天皇退位特例法の付帯決議は、女性宮家創設などの「速やかな検討」を求めていたはずだ。そろそろ結論を導く段階にきているだろう。

毎日新聞

益川敏英さん死去 「科学と平和」を問い続けた

素粒子の理論で世界的な業績を上げ、2008年にノーベル賞を受賞した京都大学名誉教授の益川敏英さんが亡くなった。核兵器廃絶や護憲・平和の社会運動にも関わったことで知られる。ノーベル賞に値する研究は、人類の発展に貢献することもあれば戦争の道具にもなりうる。「科学に携わる人間は身に染みて感じていなければいけない」との思いからだ。「怖いのは科学者が慣らされ、取り込まれてしまうこと」と警鐘を鳴らした。先の戦争でも多くの科学者が軍に加担した。「戦争を知る世代として、孫たちの未来のために発言する」とも語っていた。

混戦の横浜市長選 カジノへの逆風映す構図

横浜市長選が8日に告示され、8人が立候補した。焦点はカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非だ。現職の林文子市長ら2人が誘致推進、6人が反対を主張している。注目は、IRを推進してきた自民党から、元衆院議員の小此木八郎氏が誘致中止を掲げて出馬したことだ。菅義偉首相は官房長時代からIR推進の旗を降り、地元の横浜は、有力候補地と見られていた。IRをめぐっては、ギャンブル依存症への懸念が根強い。賛否が分かれる施策だけに、誘致には住民理解が欠かせない。首相の地元の民意が示されれば、政府のIR戦略にも影響が及ぶ可能性がある。

読売新聞

クロスボウ規制 不法所持を許さない制度に

クロスボウは弓の弦に矢を装着し、引き金を引いて発射する道具だ。スポーツ射撃や学術研究の際の動物麻酔に使われている。一方、護身用や趣味で所有する人も多く、殺傷事件も起きている。来春までに、所持を都道府県公安委員会の許可制とする改正銃刀法が成立した。兵庫県宝塚市では昨年6月、家族ら4人が親族にクロスボウで撃たれ、3人が亡くなった。その後、神戸市や長野市で撃たれる事件も相次いだ。許可制で、所有者や流通実態を把握しやすくなる。ネットやSNSを介した取引も想定されるため、警察は、こうした取引にも目を光らせ、厳正に対処してもらいたい。

東電再建計画 利益確保に欠かせぬ信頼回復

東京電力ホールディングスが新しい再建計画をまとめた。収益力を高め、福島原発事故の処理を確実に進めるには、信頼回復に全力を挙げるべきだ。柏崎刈羽原発が稼働すれば、1基年間500億円の利益の押し上げると見込むが、今年、テロ対策の不備が次々に発覚した。早期の再稼働は見通せていない。計画では、組織の体質にもメスを入れるとする2030年度までには、再生可能エネルギーや送電網などに最大3兆円投資し、収益源にする方針だ。洋上風力発電や海外の水力発電事業でも、年1000億円の利益目標を掲げる。東電は、他業種企業や海外企業との連携を強化する必要がある。