shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月11日の社説

朝日新聞

入管の報告書 人権意識を問い直せ

名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが3月に病死した問題で、入管庁が最終報告をまとめた。報告からは、 体調不良を訴えながらも「収容ありき」の考えのもと、最悪の結果につながったことが見て取れる。改善策の筆頭として「全職員の意識改革」が掲げられた。視察委員会が設けられているが、ウィシュマさんが書いた救済を求める委員会宛の手紙は亡くなった後に開封されるなど、「外部の目」も機能しなかった。国民の不信を払拭するためにも、人権保障に軸足を置いた新たしいルール作りを急がなければならない。

コロナ下の首相 菅氏に任せて大丈夫か

新型コロナ「第5波」の勢いが収まらない。にもかかわらず、菅政権は酒類の提供対策に続き、入院方針の転換をめぐり迷走を繰り返した。人々の命と暮らしを任せて大丈夫か。政治指導者としての菅首相の資質が厳しく問われる局面だ。首相は就任当初からコロナ対策を最優先課題に掲げていた。このような迷走は政権の体質に根があるとみるべきだろう。ます、根拠なき楽観である。そして、首相の異論を寄せ付けない姿勢と、国民に響く言葉を持ち合わせておらず、また自ら進んで訴えようという姿勢がないことだ。コロナ禍で「最大の危機」を乗り切り、国民の安全・安心を取り戻せるか。首相がこれまでの対応を根本的に改めなければ、信頼回復はおぼつかない。

産経新聞

IOCC報告書 中国に排出減を説得せよ 気象変動学に多様性の適用を

国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第1作業部会が「第6次報告書」をまとめた。地球温暖化の現状や将来予測についてまとめた内容だ。今回は現状について「人間の影響が待機、海洋および陸域を温暖化させた」と断定。将来予測では、「向こう数十年の間に温室効果ガスの排出が大幅に減少しないかぎり、21世紀中の地球温暖化は1.5度および2度を超える」と指摘する。今回の報告書に率先して対応すべきは中国だ。中国の二酸化炭素排出量は世界全体の約3割を占め、2位米国の倍する。中国は今後9年間、二酸化炭素の排出増を続けることを公言している。日本政府は、太陽光や風量発電の大幅拡大を計画するが、火力発電のバックアップは減らせないため、原発再稼働促進が急務である。そして、次世代原発・高温ガス炉の実用化を進めるべきだ。ただ、IPCCの活動とCOPでの議論は、進行中の気温上昇の原因を温室効果ガスにのみ限定しているように見える。地球は宇宙の一部なので気候変動の科学は複雑系の最たるものだ。気候科学に全体主義の影がさすことがあってはならず、国際覇権や経済戦争と表裏一体の関係という点も留意が必要だ。

東京新聞

核禁止と日本 条約の批准こそ民意だ

核を全面的に違法とする核兵器禁止条約への参加を求める民意が広がる中、日本政府は背を向けたままだ。これまで、核軍縮で重要な役割を果たしてきた核拡散防止条約(NTP)が停滞する一方で、核保有国は昨年、核兵器に計約七百二十六億ドル(約八兆円)を投じていた。すでに五十五カ国・地域が加盟する核禁条約の初締約国会議が予定されている。最近の世論調査では、日本の条約参加を求める人は約七割に上る。民意と向き合い、まずは締約国会議にオブザーバー参加し、最終的に条約批准を目指すべきだ。核軍縮をめぐる議論を主導することが、唯一の戦争被爆国の日本の使命である。

収容女性の死亡 入管の閉鎖性問い直せ

名古屋市の入管施設に収容中のスリランカ人女性が死亡した事件で、出入国在留管理庁が最終調査報告書を公表した。ウィシュマさんは、昨年八月に収容され、体調を崩し、今年三月に死亡した。報告書では、情報共有や休日の医療体制の不備、ドメスティックバイオレンスの被害者にも関わらず、内規に反して事情聴取をしていないなど、改善を促している。最大の問題は、仮放免を却下した点だ。収容に固執した背景には、長期収容の圧力で収容者に国外退去を促すという送還最優先の方針があった。入管当局の閉鎖性が事件の本質である。第三者を介在させる改革が不可欠だ。

毎日新聞

東京五輪SDGs 徹底検証し教訓を今後に

東京オリンピックは、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現を掲げていたが、取り組みは不十分だった。気候変動対策や資源の有効活用、生物多様性保全などに配慮することを運営の柱に据えていた。電力は全てを再生可能エネルギーで賄い、燃料電池車など次世代自動車も導入。メダルは、小型家電などの金属をリサイクルした。しかし、、ゴミの減量は見過ごされ、まだ使える国立競技場を新築し、その建材に熱帯雨林の木材が使われていたという。できたこととできなかったことを検証して、五輪の改革や社会作りの教訓とすることが求められる。

ウィシュマさん死亡 命を軽んじる入管の非道

名古屋市の入管施設に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題で、管理庁が報告書を公表した。体調悪化が進むことを職員が認識しながらも、必要な措置を取られず、33歳で亡くなった。職員は仮放免のために体調不調を誇張していると疑い、物を飲み込めない状態をからかう職員もいた。問題は、体制にあり、情報共有や人員確保の不十分さ、職員の教育不足と指摘する。2007年以降、入管施設での死亡は17人に上る。再発防止策を講じ、悲劇を繰り返してはならない。自由に生きる権利を奪う収容は、本来限定的に運用されるべきだ。

読売新聞

国家公務員離れ 総合的見地で働き方改革せよ

人事院が、公務員人事管理の現状と課題について、「人材の確保は喫緊の課題」と国会と内閣に報告した。まず、長時間労働の是正が必要だろう。国会質問に対する答弁の準備が深夜まで及び、このことについて国会に協力を要請。原則、2日前までに内容を通告するルールを、各党は順守してほしい。また、昨年12月から今年2月の3か月間で、過労死ラインを超えて残業した職員は、延べ約3,000人に上った。日本は欧米主要諸国に比べ、公務員数が少ない。政府は、危機を念頭に、必要な部署に必要な人材を配置することが大切だ。公務員の信頼回復も急務である。官の劣化と政の劣化は無縁ではない。

車の電動化目標 主要国の規制に戦略的対応を

温室効果ガス削減に向け、日欧米と中国の電動化目標が揃った。米国は2030年に新車販売の半分を電動車にする目標を発表した。対象は電気自動車(EV)と、水素を燃料とする(FCV)のほか、プラグインハイブリット車(PHV)だ。一方、欧州連合EU)は、HVとPHVを含めた全てのガソリン車の新車販売を、35年から禁じる。今後、HVの販売を続けられるかは不透明だ。日本は35年までに新車販売の全てを電動車にする目標を掲げ、HVも対象としいる。将来はEVが中心となることを想定し、充電設備拡大や、次世代電池の開発、部品産業の雇用維持策にも目を配り、官民で対応を急ぐべきだ。