shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年7月23日の社説

朝日新聞

『五輪きょう開会式 分断と不審、漂流する祭典』

東京五輪の開会式の日を迎えた。ただ、コロナ禍や直前の騒動で、まちには高揚感も祝祭気分もない。誘致当時の安倍首相は、復興五輪を掲げ、国際社会に原発事故の「アンダーコントロール」を宣言した。開催地決定後は、コンパクト五輪構想の破綻や経費の膨張、責任者の相次ぐ交代などが相次いだ。あるべき大会像を探らず、五輪ならばなんでも通るというおごりと、根拠なき楽観論の末が、「緊急事態宣言下での無観客開催」だ。肥大化・商業化が進む五輪から脱却し、新しい五輪を目指すも、国際オリンピック委員会IOC)や米国のテレビ局、スポンサーなどの複雑な思惑が絡み、試みは頓挫した。IOCの独善的な体質も浮き彫りになった。ナショナリズムの発露の場になりがちな五輪だが、日本の選手のみならず、外国人選手にも等しくエールを送りたい。躍動する選手の姿を通じスポーツの持つ力と人間の可能性を認識し、より良い世界をともに築く決意を新たにする。私たち一人ひとりが独自の視点を見いだすようにしたい。

産経新聞

東京五輪開幕 明日につながる熱戦望む 歴史的大会へ悪い流れを断て』

わが国は聖火を消すことなく、「五輪開催」という最後の一線を守り抜いた。日本のみならず、世界と五輪史にとって大きな意義がある。選手たちには、無観客だがテレビ桟敷から何十億もの人々が観戦し、その声援の後押しを信じて奮起の糧にしてほしい。残念なのは大会組織委員会の混乱ぶりだ。小山田圭吾氏の辞任、小林賢太郎氏の解任と、開幕直前に問題が相次いだ。悪い流れを断ち切らなくてはならない。コロナとの戦いも重要だ。大会の主役は、出場する約1万1千人の選手たちである。選手が力を発揮できる環境を整え、「日本開催でよかった」と帰ってもらえるか、大会の成否はそこにかかっている。日本の選手にも注文したい。選手たちは、より強い輝きのメダル、一つでも上の順位、自己記録の更新を最後まであきらめないでほしい。そして、明日のために戦ってもらいたい。こんな時期だからこそスポーツが必要だ。スポーツの底力を選手は見せてほしい。

東京新聞

東京五輪きょう開幕 対立と分断を憂える』

今夜、開会式を迎える東京五輪は史上初の無観客開催となりました。緊急事態宣言の真っただ中、観客はゼロでも、選手や大会関係者の感染が続出しています。憂えるのは大会が人々の間に対立や分断をもたらしたことです。インターネット上での批判を恐れ、発言を自粛するアスリート。大会ボランティアへの見知らぬ者からの罵声。混乱の最大の原因は、感染を収束できないまま、開催を強行した日本の政界、スポーツ界のリーダーらと国際オリンピック委員会IOC)にあります。その場限りの対応や結論の先送りが相次ぎ、統治機能の不全を思い知らされました。本来、五輪は対立や分断ではなく、連帯と共感を示す場です。大会には母国を逃れた難民選手団性的少数者LGBT)だと公表した選手も参加します。お互いの差異を認め合い、多様性を尊重する。共感し、連帯する。混乱する大会が、その機会であることを忘れたくはありません。

毎日新聞

『ワクチン接種の証明書 差別生まぬ慎重な議論を』

新型コロナウイルスワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」が導入される。一部の海外渡航先で入国後の隔離など、防衛措置が減免され、欧州連合(EU)などで導入が進む。ただ、ワクチン接種が全国民にいきわたるまではまだ時間がかかる。一部の自治体などでは、証明書の提示で、地域の店で使える割引券を配布する事例がある。公平性や公正さを欠いていないか検討すべきだ。接種の強制や未接種者への差別につながらないよう、慎重な議論が必要だ。

『開会式演出者の解任 五輪の理念踏みにじった』

開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が解任された。お笑い芸人時代、ナチス・ドイツホロコーストをネタに「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」という表現を使ったコントを、ビデオ収録していた。五輪憲章は根本原則の中で、人種や肌の色、宗教などのいかなる差別も認めていない。相次ぐ不祥事で開幕前から価値が損なわれた東京五輪を、世界中の視聴者がどう見るか。組織委はこの事態を招いた経緯を明らかにすべきだ。

読売新聞

東京五輪開幕へ コロナ禍に希望と力届けたい』

緊急事態宣言下、東京五輪が開幕する。困難に立ち向かう努力の大切さや尊さを世界に伝えたい。政府や東京都、大会組織委員会は、感染対策に万全を尽くし、円滑な運営に努め、大会を成功させなくてはならない。「コロナに打ち勝った証し」という目標の達成はおろか、今は感染拡大中だ。外国の選手や関係者が数万人規模で来日する中、感染対策の欠陥が露呈している。政府や組織委は対策の見直しを進め、選手らにも自覚ある行動を促す必要がある。日本オリンピック委員会山下泰裕会長は、選手たちに「感謝と誇りを感じつつ、思う存分、輝いてほしい」と語った。各地で計画していた交流行事は相次いで中止となり、思い描いていた五輪とは様相が変わったことは、残念というほかない。スポーツには人の心を動かす「力」がある。コロナ禍に苦しむ世界の人々に希望が届くといい。