shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月11日の社説

朝日新聞

入管の報告書 人権意識を問い直せ

名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが3月に病死した問題で、入管庁が最終報告をまとめた。報告からは、 体調不良を訴えながらも「収容ありき」の考えのもと、最悪の結果につながったことが見て取れる。改善策の筆頭として「全職員の意識改革」が掲げられた。視察委員会が設けられているが、ウィシュマさんが書いた救済を求める委員会宛の手紙は亡くなった後に開封されるなど、「外部の目」も機能しなかった。国民の不信を払拭するためにも、人権保障に軸足を置いた新たしいルール作りを急がなければならない。

コロナ下の首相 菅氏に任せて大丈夫か

新型コロナ「第5波」の勢いが収まらない。にもかかわらず、菅政権は酒類の提供対策に続き、入院方針の転換をめぐり迷走を繰り返した。人々の命と暮らしを任せて大丈夫か。政治指導者としての菅首相の資質が厳しく問われる局面だ。首相は就任当初からコロナ対策を最優先課題に掲げていた。このような迷走は政権の体質に根があるとみるべきだろう。ます、根拠なき楽観である。そして、首相の異論を寄せ付けない姿勢と、国民に響く言葉を持ち合わせておらず、また自ら進んで訴えようという姿勢がないことだ。コロナ禍で「最大の危機」を乗り切り、国民の安全・安心を取り戻せるか。首相がこれまでの対応を根本的に改めなければ、信頼回復はおぼつかない。

産経新聞

IOCC報告書 中国に排出減を説得せよ 気象変動学に多様性の適用を

国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)の第1作業部会が「第6次報告書」をまとめた。地球温暖化の現状や将来予測についてまとめた内容だ。今回は現状について「人間の影響が待機、海洋および陸域を温暖化させた」と断定。将来予測では、「向こう数十年の間に温室効果ガスの排出が大幅に減少しないかぎり、21世紀中の地球温暖化は1.5度および2度を超える」と指摘する。今回の報告書に率先して対応すべきは中国だ。中国の二酸化炭素排出量は世界全体の約3割を占め、2位米国の倍する。中国は今後9年間、二酸化炭素の排出増を続けることを公言している。日本政府は、太陽光や風量発電の大幅拡大を計画するが、火力発電のバックアップは減らせないため、原発再稼働促進が急務である。そして、次世代原発・高温ガス炉の実用化を進めるべきだ。ただ、IPCCの活動とCOPでの議論は、進行中の気温上昇の原因を温室効果ガスにのみ限定しているように見える。地球は宇宙の一部なので気候変動の科学は複雑系の最たるものだ。気候科学に全体主義の影がさすことがあってはならず、国際覇権や経済戦争と表裏一体の関係という点も留意が必要だ。

東京新聞

核禁止と日本 条約の批准こそ民意だ

核を全面的に違法とする核兵器禁止条約への参加を求める民意が広がる中、日本政府は背を向けたままだ。これまで、核軍縮で重要な役割を果たしてきた核拡散防止条約(NTP)が停滞する一方で、核保有国は昨年、核兵器に計約七百二十六億ドル(約八兆円)を投じていた。すでに五十五カ国・地域が加盟する核禁条約の初締約国会議が予定されている。最近の世論調査では、日本の条約参加を求める人は約七割に上る。民意と向き合い、まずは締約国会議にオブザーバー参加し、最終的に条約批准を目指すべきだ。核軍縮をめぐる議論を主導することが、唯一の戦争被爆国の日本の使命である。

収容女性の死亡 入管の閉鎖性問い直せ

名古屋市の入管施設に収容中のスリランカ人女性が死亡した事件で、出入国在留管理庁が最終調査報告書を公表した。ウィシュマさんは、昨年八月に収容され、体調を崩し、今年三月に死亡した。報告書では、情報共有や休日の医療体制の不備、ドメスティックバイオレンスの被害者にも関わらず、内規に反して事情聴取をしていないなど、改善を促している。最大の問題は、仮放免を却下した点だ。収容に固執した背景には、長期収容の圧力で収容者に国外退去を促すという送還最優先の方針があった。入管当局の閉鎖性が事件の本質である。第三者を介在させる改革が不可欠だ。

毎日新聞

東京五輪SDGs 徹底検証し教訓を今後に

東京オリンピックは、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現を掲げていたが、取り組みは不十分だった。気候変動対策や資源の有効活用、生物多様性保全などに配慮することを運営の柱に据えていた。電力は全てを再生可能エネルギーで賄い、燃料電池車など次世代自動車も導入。メダルは、小型家電などの金属をリサイクルした。しかし、、ゴミの減量は見過ごされ、まだ使える国立競技場を新築し、その建材に熱帯雨林の木材が使われていたという。できたこととできなかったことを検証して、五輪の改革や社会作りの教訓とすることが求められる。

ウィシュマさん死亡 命を軽んじる入管の非道

名古屋市の入管施設に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題で、管理庁が報告書を公表した。体調悪化が進むことを職員が認識しながらも、必要な措置を取られず、33歳で亡くなった。職員は仮放免のために体調不調を誇張していると疑い、物を飲み込めない状態をからかう職員もいた。問題は、体制にあり、情報共有や人員確保の不十分さ、職員の教育不足と指摘する。2007年以降、入管施設での死亡は17人に上る。再発防止策を講じ、悲劇を繰り返してはならない。自由に生きる権利を奪う収容は、本来限定的に運用されるべきだ。

読売新聞

国家公務員離れ 総合的見地で働き方改革せよ

人事院が、公務員人事管理の現状と課題について、「人材の確保は喫緊の課題」と国会と内閣に報告した。まず、長時間労働の是正が必要だろう。国会質問に対する答弁の準備が深夜まで及び、このことについて国会に協力を要請。原則、2日前までに内容を通告するルールを、各党は順守してほしい。また、昨年12月から今年2月の3か月間で、過労死ラインを超えて残業した職員は、延べ約3,000人に上った。日本は欧米主要諸国に比べ、公務員数が少ない。政府は、危機を念頭に、必要な部署に必要な人材を配置することが大切だ。公務員の信頼回復も急務である。官の劣化と政の劣化は無縁ではない。

車の電動化目標 主要国の規制に戦略的対応を

温室効果ガス削減に向け、日欧米と中国の電動化目標が揃った。米国は2030年に新車販売の半分を電動車にする目標を発表した。対象は電気自動車(EV)と、水素を燃料とする(FCV)のほか、プラグインハイブリット車(PHV)だ。一方、欧州連合EU)は、HVとPHVを含めた全てのガソリン車の新車販売を、35年から禁じる。今後、HVの販売を続けられるかは不透明だ。日本は35年までに新車販売の全てを電動車にする目標を掲げ、HVも対象としいる。将来はEVが中心となることを想定し、充電設備拡大や、次世代電池の開発、部品産業の雇用維持策にも目を配り、官民で対応を急ぐべきだ。

令和3年8月10日の社説

朝日新聞

皇族数の確保 国民の理解が欠かせぬ

皇位継承のあり方を議論している政府の有識者会議が方向性をまとめた。女性・女系天皇を認めるか否かの見解は示さず、皇族数の確保を喫緊の課題と位置づけている。旧宮家の男系男子を法律で直接皇族とする案や旧宮家の養子縁組の案には課題がある。これらの案には、皇位は未来永劫、男系男子で継承しなければならないという考えがある。民主党政権が2012年秋、女性宮家構想を打ち出したが、安倍・菅政権は議論から逃げ続け、皇室の危機を一層深刻化させた。政府、国会は主権者国民の理解と指示なしに象徴天皇制は存立し得ないことを認識し、この問題に望むべきだ。

原爆と菅首相 核禁条約を無視するな

菅首相が、就任後初となる、広島、長崎での平和式典にのぞんだ。あらゆる核兵器を違法とする核兵器禁止条約へ全く触れることはなかった。式典での平和宣言で、広島市松井一実市町は条約への参加を再び求め、長崎市の田上富久市町も条約を「育てる」道を探るよう訴えた。来年の締約国会議の場に、日本政府の姿がないことが発する「負のメッセージ」の大きさは計り知れない。菅首相は、挨拶文のうち、核廃絶への被爆国としての役割に触れた最も重要な部分を読み飛ばした。被爆国のトップに立つ者としての認識や思いが疑われていることを、首相は自覚すべきだ。

産経新聞

電源コスト試算 混乱を招く公表は問題だ

経済産業省が2030年時点の電源別発電コストの試算をまとめた。今年7月の試算では、事業用太陽光が原子力より安いとしていたが、今回はの試算では太陽光が18.9円と最も高く、陸上風力が18.5円、原子力が14.4円という。事業用太陽光発電は、自然現象に発電が左右され、その際火力発電で調節する。今回は、そのコストを見込んだ。政府は温室効果ガス排出削減のため、太陽光の大量導入を計画している。実態に合わせた正確な試算は欠かせない。公表手法も問題だ。再生エネの導入費用を分かりやすく示し、多様な電源を組み合わせてコスト削減を図る工夫が必要だ。

中国の記者いじめ 信頼を失う愚行をやめよ

中国河南省の豪雨災害を取材した、米国とドイツの記者を現地住民が取り囲み、殺害の脅しを含む嫌がらせがあったとして、米政府や中国外国人記者クラブ(FCCC)が懸念を示す声明を出した。中国政府は、中国批判として外国メディアを国営放送などで強く非難し、「ナショナリズムの扇動」を繰り返していることが背景にある。報道の自由や記者の安全を損なう中国の愚行は看過できない。災害報道では被害規模を伝えることが重要で、国内外からの適切な支援が届くきっかけにもなる。外国メディアへの圧迫は、自国の信頼を失墜させる行為だと、中国政府は悟るべきだ。

東京新聞

五輪選手中傷 言葉の暴力許されない

東京五輪では会員交流サイト(SNS)による選手らへの中傷が目に余った。言論の自由を守ることは必要だが、人格をおとしめるような攻撃は行き過ぎだ。選手らを精神面で守る手立てを考えたい。開催反対派も多い中、議論を尽くさず五輪開催に踏み切ったことに複雑な思いを抱く人もいるだろうが、その思いは主催者の国際オリンピック委員会IOC)や日本政府、東京都、大会組織委員会である。民主主義社会で言論の自由の死守は大前提だ。権力による過度な介入に口実に与えないためにも、私たち自身、言葉の暴力を許さない決意で臨みたい。

皇位継承策 議論の作送りをせずに

皇位継承について議論する政府の有識者会議が、女性宮家案か、旧宮家皇籍復帰案の二案を盛り込んだ中間報告案をまとめた。女性宮家とは、皇族女子が結婚しても皇室にとどまる案、皇籍復帰とは、戦後に皇籍を離れた旧宮家の男系男子が皇族に復帰する案だ。女性・女系天皇案など、皇位継承権の拡大は「次のステップとして考える課題」とした。安倍政権になってから女性・女系天皇案が白紙に戻った。男系男子主義に固執する保守派への配慮だろう。二〇一七年の天皇退位特例法の付帯決議は、女性宮家創設などの「速やかな検討」を求めていたはずだ。そろそろ結論を導く段階にきているだろう。

毎日新聞

益川敏英さん死去 「科学と平和」を問い続けた

素粒子の理論で世界的な業績を上げ、2008年にノーベル賞を受賞した京都大学名誉教授の益川敏英さんが亡くなった。核兵器廃絶や護憲・平和の社会運動にも関わったことで知られる。ノーベル賞に値する研究は、人類の発展に貢献することもあれば戦争の道具にもなりうる。「科学に携わる人間は身に染みて感じていなければいけない」との思いからだ。「怖いのは科学者が慣らされ、取り込まれてしまうこと」と警鐘を鳴らした。先の戦争でも多くの科学者が軍に加担した。「戦争を知る世代として、孫たちの未来のために発言する」とも語っていた。

混戦の横浜市長選 カジノへの逆風映す構図

横浜市長選が8日に告示され、8人が立候補した。焦点はカジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非だ。現職の林文子市長ら2人が誘致推進、6人が反対を主張している。注目は、IRを推進してきた自民党から、元衆院議員の小此木八郎氏が誘致中止を掲げて出馬したことだ。菅義偉首相は官房長時代からIR推進の旗を降り、地元の横浜は、有力候補地と見られていた。IRをめぐっては、ギャンブル依存症への懸念が根強い。賛否が分かれる施策だけに、誘致には住民理解が欠かせない。首相の地元の民意が示されれば、政府のIR戦略にも影響が及ぶ可能性がある。

読売新聞

クロスボウ規制 不法所持を許さない制度に

クロスボウは弓の弦に矢を装着し、引き金を引いて発射する道具だ。スポーツ射撃や学術研究の際の動物麻酔に使われている。一方、護身用や趣味で所有する人も多く、殺傷事件も起きている。来春までに、所持を都道府県公安委員会の許可制とする改正銃刀法が成立した。兵庫県宝塚市では昨年6月、家族ら4人が親族にクロスボウで撃たれ、3人が亡くなった。その後、神戸市や長野市で撃たれる事件も相次いだ。許可制で、所有者や流通実態を把握しやすくなる。ネットやSNSを介した取引も想定されるため、警察は、こうした取引にも目を光らせ、厳正に対処してもらいたい。

東電再建計画 利益確保に欠かせぬ信頼回復

東京電力ホールディングスが新しい再建計画をまとめた。収益力を高め、福島原発事故の処理を確実に進めるには、信頼回復に全力を挙げるべきだ。柏崎刈羽原発が稼働すれば、1基年間500億円の利益の押し上げると見込むが、今年、テロ対策の不備が次々に発覚した。早期の再稼働は見通せていない。計画では、組織の体質にもメスを入れるとする2030年度までには、再生可能エネルギーや送電網などに最大3兆円投資し、収益源にする方針だ。洋上風力発電や海外の水力発電事業でも、年1000億円の利益目標を掲げる。東電は、他業種企業や海外企業との連携を強化する必要がある。

令和3年8月9日の社説

朝日新聞

東京五輪閉幕 混迷の祭典 再生めざす機に

東京五輪が終わった。新型コロナが世界で猛威をふるう中で開催された「平和の祭典」が社会に突きつけたものはなにか。朝日新聞の社説は5月、国民の健康を「賭け」の対象にすることは許せないこと、公平公正な競技の実施が揺らいでいることなどから、今夏の開催中止を菅首相に求めた。しかし、「賭け」は行われ、状況はより深刻になっている。感染爆発で、首都圏を中心に病床は逼迫し、医療崩壊寸前というべき事態に至った。首相や小池百合子都知事、そして国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長らは判断の誤りを認めない。これまでの大会日程から逆算した緊急事態宣言の決定など、五輪優先・五輪ありきの姿勢で施策をゆがめてきた。安倍前政権から続く数々のコロナ失政、そして五輪強行によって、社会には深い不信と分断が刻まれた。その修復は政治が取り組むべき最大の課題だ。財政負担などの様々なリスクは開催地に押し付け、IOCは損失をかぶらない一方的な開催契約など、その独善ぶりは世界周知のものとなった。一方、アスリートたちの健闘には、開催の是非を離れて心からの拍手を送りたい。強行開催を通じ浮かんだ課題に真摯に向き合い、抜本改革につなげる。難しい道のりだが、それを実現させることが東京大会の真のレガシーとなる。

産経新聞

東京五輪閉幕 すべての選手が真の勝者だ 聖火守れたことを誇りたい

確かなことは、東京五輪を開催したからこそ、感動や興奮を分かち合えたということだ。無観客を強いられたが、日本は最後まで聖火を守り抜き、大きな足跡を歴史に刻んだ。その事実を誇りとしたい。代表選手の置かれた厳しい環境について、為末大氏は「マラソンでいえば、30キロまで来ながらスタート地点に戻されるようなもの」と語った。今大会から採用された、「都市型スポーツ」は新しい景色を見せてくれた。スケートボード女子パークで、金メダル最有力といわれた岡本碧優が逆転をかけた大技に失敗した際、ライバルたちが駆け寄り、抱擁の輪と肩車で敗者を称えた。彼女たちが表現したのは、他者の痛みへの共感、挑戦する勇気への賛美、心の深い部分で結ばれた戦友との連帯だろう。無観客の中、大会に魂を吹き込んだのは選手たちであり、運営に携わったすべての大会関係者だ。熱戦に心を動かされた経験を、余すことなく後世に語り継がなければならない。

東京新聞

東京五輪が閉会 大会から学ぶべきこと

五十七年ぶりの日本での夏季の東京五輪が閉会した。選手やコーチ、運営に尽力した関係者の努力はたたえたいが、招致の在り方から感染拡大の中での大会開催など、教訓は多い。選手らは、感染すれば排除され、観光で外出すれば指弾される。これでも、今日本で、開催する意味が本当にあったのか、との思いを抱くのは当然だろう。二〇一三年の招致当時、東日本大震災からの「復興五輪」をうたった。しかし、感染拡大とともに「人類がウイルスに打ち勝った証しとなる大会」などと簡単に変転した。「コンパクト五輪」の構想も、マラソンなどが札幌に移転するなど、会場は拡散。大会経費は、当初の倍以上で一兆六千億円以上に膨れ上がっている。IOCの組織は肥大化し、商業化も過度に進む。硬直的で、国家主権をも顧みない独善的な体質にもっと早く気づき、学ぶべきだった。IOCと歩調を合わせて五輪と感染拡大との関係を否定し続ける菅義偉首相をはじめ日本政府の責任は、特に重い。平和の希求や人間の尊厳など五輪の理念は、今後も最大限尊重されるべきだ。ただし、IOCや日本政府が、それらを実践するにふさわしい存在ではないことも浮き彫りになった。そのことに気付けたことがせめてもの救いと言いたいが、それにしても私たち日本国民は、巨額の代償を支払うことになったが…。

毎日新聞

東京五輪が閉幕 古い体質を改める契機に

新型コロナウイルス下での東京オリンピックが閉幕した。原則無観客だったが、マラソンなど公道での競技には、五輪の雰囲気を味わおうと人が詰めかけた。選手村では行動が制限され、選手にとっては「おもてなし」とは程遠い不自由な環境だったろう。1年延期でこの時期の開催が適切だったかは、閉幕後も問われ続ける。期間中、多様な価値観を受け入れる社会を求め、選手たちが行動する姿が目立った。選手たちは「五輪の精神」を身をもって示した。一方、五輪を運営する側はひずみを露呈させた。IOCはコロナ下での開催を強行した。ビジネス優先で、選手の健康や国民の安全が軽視された点は否めない。開催都市との契約は「不平等条約」とも呼ばれ、中止の決定権はIOCが持ち、賠償責任は一切負わないと記されている。政府や東京都も開催ありきの姿勢を貫いた。そして、大会組織委員会森喜朗前会長の女性蔑視発言や開会式演出担当者の過去の言動など、差別的な体質が明らかとなった。古い体質を改めなければ、五輪は新たな時代に踏み出せない。憲章の理念を実現しようとした選手たちの声に耳を傾けることが、その一歩となるはずだ。

読売新聞

東京五輪閉幕 輝き放った選手を称えたい

新型コロナウイルスの流行の中、困難を乗り越えて開催された東京五輪が幕を閉じた。異例の大会は、長く語り継がれることだろう。東京都内の新規感染者数の急増で、一部に中止を求める声が上がった。選手たちが見せた力と技は多くの感動を与え、厳しい中での開催は意義が大きかったと言える。選手たちは先行き不透明の中で練習を続け、大会中は感染対策のため、行動制限を課せられた。全力を尽くした選手たちを称えたい。日本選手団は金27など、計58個のメダルを獲得した。政府は、誘致が決まった2013年頃から、選手の強化費を増額しメダル獲得が期待できる有望競技に重点配分してきた。こうした対策が実を結んだと言えよう。今大会は、「多様性と調和」を大きな理念の一つに掲げた。「難民選手団」や、性的少数者LGBT)を公表した選手も参加している。多様性を認め合う社会へ変わる契機にしたい。五輪が抱える課題も浮き彫りになった。大会延期や無観客によるチケット収入の補填は、ほとんど東京都や国が負うことになる。IOCに比べ、開催都市のリスクは大きい。大会組織委員会では、開会式演出担当者らが次々に解任に追い込まれた。組織委員会は、今回の課題を記録に残し、今後の五輪改革につなげるよう、IOCに提案することが必要だ。

令和3年8月8日の社説

朝日新聞

外来生物 実行ある規制の強化を

環境省が、アメリカザリガニやアカミミガメ(ミドリガメ)を「特定外来生物」に指定する方向で、検討を始めた。生態系や人間の生命・身体、農林水産業に被害を与える恐れがある生物で、飼育や売買も禁じられ、違反すると懲役や罰金を科される。今回は、輸入や販売、放出を禁じつつ、ペットとしての飼育は認める方向で議論が進んでいる。社会全体で生物に関する正確な知識を持つ必要がある。地域振興に本来生息しないホタルを放つといった行為も認められない。希少生物や生態系を守る地域を決めて管理する他なく、国はその地域の自治体・住民をしっかり支援してもらいたい。

産経新聞

東アジア外相会議 中国の弾圧はデマではない

東アジアサミット(EAS)外相会議で、日本や米国が、中国政府による香港、新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判した。それに対し中国は内政干渉と反発。茂木敏充外相の「深刻な懸念」との表明に、中国の王毅外相は「中国内部のことに口出ししてデマを飛ばし、国家主権の平等という原則を破壊した」と非難した。人権や基本的自由は人類普遍の価値で、弾圧に対し声を上げるのはもっとものことだ。日米は、中国の南シナ海への海洋進出にも反対を表明した。日米は、中国政府の不当な振る舞いを指弾し続けなくてはならない。

議員事務所捜索 公明は説明責任を果たせ

東京地検特捜部が、公明党の2人の衆院議員の議員会館事務所や同党の遠山清彦衆院議員が代表を務めるコンサルタント会社を家宅捜索した。2議員の秘書と元秘書が、貸金業の登録を受けず金融機関の融資を仲介した疑いがある。党は「クリーンな政治」を標榜し、政治とカネの問題に厳しい姿勢をとってきたはずだ。自浄作用は選挙対策というより政治倫理を正すために必要だ。人権をめぐる問題でも公明の対応には疑問符がつく。公明は、人権の尊重、政治倫理の確立の看板を下ろす瀬戸際にいるという危機感を持ち、原点に返る必要がある。

東京新聞

週のはじめに考える なぜ日記を書くの?

夏休みの公園。子どもたちが「なぜ日記を書かなきゃいけないの?」と会話していました。今から八十年前の一九四一(昭和十六)年、太平洋戦争開戦。愛知県豊橋市豊橋中学に、左右田年秋という背が高く、スーツが似合うかっこいい先生がいました。三学期のある月曜、先生はあちこちにガーゼとばんそうこうを貼り、右のほほからまぶたが腫れ上がっています。先生は何も言いませんが、憲兵隊にやられた、という話が広がります。生徒の一人の鈴木拓郎さんは、けがをしてもいつも通り学校に来た先生の姿に、誰にも負けない強い気持ちを見た、と思いました。やがて鈴木さんは学校の先生になり、九十六歳の今年一月、自分の思い出などを書いた「こしかたゆくすえ」と題する冊子を出しました。その中の一文「左右田先生とケンペイタイ」では、今も忘れない先生の思い出を、詳しく述べています。それを私たちの仲間の川合道子記者が、記事を書きました。もしも鈴木さんが戦争中の体験を、そして川合記者が記事を書かなかったら。戦争時代の恐ろしいできごとを知る手がかりの一つが消えていたかもしれません。書くことの大きな理由の一つは「決して忘れないため」です。ものごとをきちんと記録し、しっかり残す姿勢を身につけるためにも、家や学校であったことや感じたことを、短くてもいいので、夏休みに限らず毎日書いてみてください。

毎日新聞

ベラルーシ選手の亡命 独裁が汚した五輪の理念

東京オリンピックに参加していた陸上女子のベラルーシ代表、クリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手がポーランドに亡命した。種目変更を通告された不満をSNSに告発したところ、帰国を命じられたという。ベラルーシのルカシェンコ大統領は、スポーツに資金を投じているのにメダルが取れていないと、選手やコーチを非難していた。ベラルーシ当局は、反政府デモが起こるたび、徹底的に弾圧してきた。五輪憲章は「スポーツをすることは人権の一つ」とうたう。その理念に反する行為を続けてきたベラルーシに、IOCや国際社会は毅然とした態度を取るべきだ。

脱炭素の行動計画 危機感の共有が不可欠だ

温室効果ガス排出を減らす行動を企業や家庭に求める政府の計画案が公表された。省エネ家電や設備の導入、ビルや住宅の省エネ化に加え、電気自動車や太陽電池パネル、LED照明の活用などを促す。家庭部門の削減率は、現計画の39%から66%に大幅に上積みされた。省エネ家電などの購入は、費用がかかるため、政府は支援策を示すべきだ。産業界の行動を促すには、「カーボンプライシング」の導入も有効だろう。再生可能エネルギーの割合を高めることも重要だ。目標達成に、国民、企業、行政が一丸となり、温暖化への危機感を共有することが何よりも大切だろう。

読売新聞

介護人材不足 働きやすい職場作りを急げ

厚生労働省は2040年度に、介護職員が280万人必要になると推計した。人手不足は、職員の負担が重くなり、離職を招くという悪循環が生じやすい。課題を先送りせず、介護分野で働く人を増やす施策を着実に講じていくべきだ。給与をはじめ、職員の処遇を改善することが急務である。限られた人材を有効に活用する観点も必要だ。離職した介護福祉士に再度就職してもらうなど、人材の掘り起こしも進めたい。厚労省は、都道府県に、働きやすい介護事業所を認証する仕組みの導入を求めている。職場改革を促すことにつながるだろう。

ドイツの大洪水 「脱炭素」への傾斜を強めるか

ドイツ西部とベルギーなどで7月中旬、豪雨による洪水で、多くの人が命を落とした。比較的自然災害が少なかったことから、国民に衝撃を与えている。ドイツのメルケル首相は被災地を視察した際、異常気象と温暖化の関連を指摘。ドイツではもともと、気候変動や温室効果ガスの排出削減策への関心が高い。9月の総選挙では、環境政党緑の党の政権入りが有力視されている。ドイツは、環境保護と産業界の競争力のバランスをとりながら、気候変動対策を定めてきた。11月の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に向け、建設的な議論を主導してほしい。

令和3年8月7日の社説

朝日新聞

イラン新政権 孤立さけ、緊張感を

中東のイランで、新政権が発足した。新大統領の前司法長官のライシ師は、宣誓式のあと、近隣の国々に対し「友好と同胞愛の手を差しのべる」と所信演説した。ライシ師は過去に政治犯の弾圧に関わった保守強硬派だ。イランの核開発をめぐる国際合意は、トランプ前米政権による離脱で機能不全に陥り、欧州の仲介で始まったバイデン政権との間接協議も中断している。イラン経済は、米国による経済制裁とコロナ禍で疲弊している。体制批判との見方もできる各地で起こっているデモでは、治安部隊の発砲で8人が死亡したと見られる。さらなる暴力は許されない。

五輪閉幕へ 問題放置せず検証急げ

東京五輪はあす、最終日を迎える。政府、東京都、大会組織委員会には、世論を二分して強行された大会について、これまで持ち上がった問題を整理し、対応を検証したうえで、結果を国民と世界に報告する義務がある。浮き彫りになったのは、責任の所在が明確でなく、不都合な話はやり過ごし、既成事実を重ねていく、今の日本政治そのものの姿である。大会でのコロナ対策も同様だ。具体的なデータを示し、課題と教訓を共有することが世界への務めだ。社説は4年前、政府、都、組織委には、文書管理を徹底し国民への説明責任を果たすよう求めた。改めて念を押したい。

産経新聞

五輪選手が亡命 ベラルーシ強権に圧力を

東京五輪女子陸上協議のベラルーシ代表、クリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手が人道査証(ビザ)を発給したポーランドに亡命した。ベラルーシのルカシェンコ大統領が強制帰国を指示した可能性があり、強権統治体制が背景にあるとみるべきだろう。ツィマノウスカヤ選手は出場経験のない1600メートルリレーへの出場登録を、本人の同意がないまま行われたことに、SNS上で不満を投稿していた。これが当局批判と捉えられた。独裁を許しているのはロシアのプーチン大統領の存在だ。日本は欧米諸国と歩調を合わせ、ルカシェンコ政権への圧力強化と、ロシアにも自制を求めていかねばならない。

蔓防措置の追加 全国への適用を決断せよ

新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大は全国各地に波及している。5日、政府は蔓延防止等重点措置に8県の追加適用を決定したが、デルタ株への置き換わりによる感染速度に、政府の意思決定が追いついていない。全国へ蔓延防止等重点措置を適用すべきだ。蔓延防止は市町村単位で対象地域を絞れる。全国一律の対策は必要ないが、生活圏が一体化している大都市圏では、対策を揃えるべきである。これまでのコロナ対策はことごとく後手に回ってきた。同じ誤りを繰り返してはならない。その責任は、政府と専門家の分科会にある。

東京新聞

園児熱中症死 悲しい教訓とせねば

福岡県中間市の保育園で、五歳の園児が送迎バスに9時間閉じ込められ、熱中症で死亡した。園長は、男児がバスを降りたものと思い込み、確認を怠ったという。園には安全マニュアルなどはなかった。通常は添乗員がいるべきだと専門家は指摘する。男児不在に、園が気づかなかったというのも不可解だ。基本的なルールが守られていなかったのではないか。園長の話は、慢性的なスタッフ不足があったこともうかがわせる。貴い命を預かる現場で、「質の低下」は見過ごせない。環境の改善を迅速に進める必要がある。

毎日新聞

産業遺産で「遺憾」決議 負の面認め誠実な対応を

世界文化遺産明治日本の産業革命遺産」を巡る日本政府の対応に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委員会が「強い遺憾」を表明した。長崎県端島炭坑で戦時中に働かされた朝鮮半島出身者の元徴用工に関する説明が、不十分だと批判された。日本政府は登録の際、この事実を説明すると約束していたが、関係法令や行政文書を紹介する程度にとどまっている。産業革命発祥の地である英国では、輝かしい成果と、それを底辺で支えた奴隷労働などの歴史もあわせて紹介されている。歴史には光と影がある。いずれにも向き合ってこそ、その重みを知ることができる。

歯止めかからぬ第5波 政治の責任放棄許されぬ

新型コロナウイルスの感染「第5波」が全国に広がっている。重症者も急増。政府がまず取り組むべきは、医療体制の拡充だ。病床の確保に全力を挙げるとともに、症状が改善した人の転院や退院がスムーズに進むよう医療機関の連携を図ることが欠かせない。宿泊・自宅療養の体制充実と感染対策の強化も重要だ。飲食店だけでなく、職場でも感染は広がっており、テレワークの徹底も必要となる。政府内には「今は打つ手がない」との悲観的な声も出ている。だが、国民の命や健康を危機にさらすことは許されず、手をこまねいているようでは、政治の責任放棄に等しい。

読売新聞

林業基本計画 収益力を高めて森を守りたい

林野庁は、中期的な林業政策の指針となる新たな「森林・林業基本計画」をまとめた。国産木材の供給量を2030年に19年実績比で4割近く増やす目標を掲げる。森林は二酸化炭素を吸収し、水源の涵養によって山崩れや洪水を防ぐ機能がある。国産材の需要は高まっており、林業には追い風だ。最大の課題は担い手不足である。人材の確保や効率化で、伐採から販売、再植林までを循環させ、先端技術を活用したコスト削減などを行うことが必要だ。自治体が、林業経営者を仲介するなど、経営規模の大規模化も重要だろう。

コロナ「第5波」 宿泊療養の体制を拡充せよ

新型コロナウイルスの感染「第5波」が到来している。爆発的な感染拡大にある重大な局面において、政府の対応は迷走。重症患者らに入院を限定する方針を示したものの、自治体や医療現場の混乱を招き、「中等症も原則入院」と軌道修正を余儀なくされた。やむを得ず自宅療養となった場合でも、希望すればすぐに宿泊療養施設に入れる体制整備が必要だ。各地の医師会は、率先して自宅療養者の対応にあたってほしい。政府は国民への自粛要請とワクチン接種に頼るばかりで、備えが不十分だった。自治体や医師会と緊密に情報を交換し、総力を挙げてもらいたい。

令和3年8月6日の社説

朝日新聞

被爆76年の世界 核廃絶へ日本が先頭に立て』

米国と中国の覇権争いを筆頭に、欧州、アジア、中東で国家間の対立が熱を帯び、核戦争の不安を高めている。一方、国家間の枠組みを超え「核なき世界」を目指す潮流も勢いづく。中華人民共和国の成立から9年後、中国が台湾の金門島を砲撃した際、米国は中国軍基地への核攻撃を検討した。ときの大統領の判断で攻撃は回避されたが、沖縄へのソ連の核攻撃も受け入れるという主戦論があった事実に慄然とする。日本政府は台湾有事があれば、限定的とはいえ集団的自衛権を行使できるよう憲法解釈を変えている。そんななか、米ロは首脳会談で「核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない」という声明を発した。核保有国は、核不拡散防止条約が定める軍縮交渉義務に背を向けている一方、新興国の核開発を許さない身勝手な態度で、軍備管理のモラルを侵食してきた。バイデン米大統領は核の先制不使用宣言を実現させ、中国との対話機運を醸成してもらいたい。非核保有国と国際世論で核廃絶の歯車を回すという志から、核兵器禁止条約が今年発行した。来年は、初の締約国会議がある。核実験の被害者支援や環境回復を進める上で、唯一の被爆国である日本の教訓と知見は生かせる。まずは、オブザーバー参加し、国際社会との連帯を示すべきだ。

産経新聞

原爆の日 覚悟持ち独自の道を進め』

広島は76回目の原爆の日を迎えた。原爆の惨禍を直接知る人が減る一方で、世界での核の脅威は増大の一途をたどっている。核兵器の開発や実験、保有、使用を全面的に禁止する核兵器禁止条約が、50の国・地域で発行した。この条約に日本は加わっていないが、非難は短絡的だ。米露中英仏をはじめ、核保有国は一国も加わっておらず、北大西洋条約機構NATO)加盟国や韓国など、米国の核抑止力(核の傘)を利用する国も同様だ。唯一の被爆国である日本は、広島や長崎の悲劇を世界に伝え続ける責務がある。そして、現実的見地から平和を追求し続ける覚悟が必要だ。

『太田氏が新委員に 時代先読みIOCに風を」』

フェイシングの五輪銀メダリストの太田雄貴氏が国際オリンピック委員会IOC)のアスリート委員に当選した。任期は2028年のロサンゼルス五輪までで、IOC委員も務める。アスリート委員会は現役選手や元選手らの声を反映させるため、1981年に創設された。日本フェイシング協会の会長を約4年務めた太田氏は、国内大会で選手の心拍数をモニター表示するなど、選手の内側を可視化したアイデアマンだ。協議現場と組織運営の両方を熟知している太田氏には、IOCに新風を吹き込んでもらいたい。IOCが抱える不透明な内側を可視化することも、期待したい。

東京新聞

原爆忌に考える 被爆地にともる「聖火」』

長崎市爆心地公園の一角に「長崎を最後の被爆地とする誓いの灯」とする「聖火」が毎月9日と8月6日にともされます。核兵器が完全禁止されるまで、長崎市民有志が守り続ける祈りの灯です。ギリシャから、五輪と同様太陽から採火されました。「聖火をください」とギリシャ政府に呼びかけた平和運動家の渡辺千恵子さんは、十六歳のとき、勤労動員された軍需工場で被爆。下半身不随になりながらも、車いすで世界を巡り、核廃絶を訴え続けました。首都東京では今日も五輪の聖火が燃えています。国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長は、先月十六日、広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花したあと被爆者と面談し、「五輪を通じて世界平和に貢献したい」とメッセージを出しました。被爆地と被災者への敬意、そして五輪が掲げる平和の理念が真実なら、広島で原爆が炸裂した今日六日八時十五分に、選手たちに黙祷を呼びかけてほしいとの広島市などの申し出を、なぜIOCが拒絶したのか不可解です。視聴率至上、商業主義のうねりの中、五輪の理念を世界で唯一の戦争被爆国で再認識してもらいたい。明後日、聖火は再び太陽へ還ります。新しい希望の種火を、ヒロシマナガサキ、そして世界に残していきますように。

毎日新聞

『広島・長崎「原爆の日」 核の恐ろしさ共有する時』

1945年夏、2度にわたる米軍の原子爆弾投下により、20万人を超える市民が犠牲になった。今なお健康被害に苦しむ多くの人がいる。広島市基町高校の生徒が被爆者から体験談を聞き取り、想像した光景を描く「原爆の絵」活動がある。88歳になる笠岡貞江さんが、被爆後、父親を棺におさめ、木切れを集めて火葬した体験を、高校2年の田邉萌奈美さんが「兄弟で父親を火葬」と題する絵で再現した。2007年から始まった活動で制作された絵は190点に上る。「核のリスクはここ40年で最高レベルにある」とは、国連で軍縮を担当する中満泉事務次官による警告だ。米国とロシア、中国は軍拡競争に血眼になっている。米コロラド大などの科学者が、インドとパキスタンが核戦争に陥った場合、都市部の数千万人が爆死し、舞い上がったすすが太陽光を遮り穀物生産量が20%近く落ち込むとの試算を発表した。バイデン米大統領が今年7月16日を「全米被爆兵士の日」に指定した。1945年に世界初の原爆実験「トリニティ実験」が行われた日だ。核廃絶を国際的な規範とする核兵器禁止条約が発行した意義を改めて認識すべきだ。参加していない日本も理念を共有する姿勢を打ち出す必要がある。ひとりひとりが想像力を働かせれば、惨劇を繰り返さない道につながるはずだ。

読売新聞

原爆忌 平和を希求する思い世界に』

原爆投下から広島は6日、長崎は9日で76年目となる。新型コロナの感染拡大で、広島市の平和記念資料館を訪れた人は減少健康にある。オンラインによる情報発信などの工夫は大切だ。今年1月、核兵器禁止条約が発行したが、核保有国だけでなく、核の傘に守られている国も参加していない。核兵器保有する北朝鮮や、保有が懸念されるイランに核を断念させ、それから建設的な形で軍縮協議を進めることが肝要だ。そうした現実的な努力を主導することが、唯一の被爆国であり、核兵器保有国に囲まれる日本の責務と言えよう。

『五輪SNS中傷 毅然とした対応で選手を守れ』

東京五輪出場選手らへの、SNS上の誹謗中層が相次ぐ。SNSは選手とファンをつなぐ一方、匿名で投稿できるため、誹謗中傷につながりやすい。汚い言葉で選手を罵る行為は、自らの人格を貶めるものだと自覚すべきだ。日本オリンピック委員会JOC)は、悪意ある投稿を監視し、記録していることを明らかにした。悪質なものは捜査当局へ通報を検討するという。悪質な書き込みには、警察は捜査を徹底してほしい。SNS事業者も、問題のある投稿を削除するなど対策を強化しなければならない。法的措置を含め、毅然とした対応をとることが重要だ。

令和3年8月5日の社説

●令和3年8月5日の社説

朝日新聞

馬毛島の基地 地元の懸念に向き合え

鹿児島県西表市の無人島・馬毛島自衛隊基地を造り、米軍機などの訓練を実施する計画を立てている。騒音被害や自然破壊への疑念に、政府は説明責任を果たさなければならない。防衛省が示した環境影響評価(アセス)に、塩田康一知事は52項目の注文をつけた。問題は、自衛隊機の訓練や施設について、具体的な内容を示していない点だ。アセスがずさんでは地元住民や自治体は適切な判断を下せず、対立が将来に続く。地元の理解なくしては、基地の安定的な運用はないことを政府は肝に銘じるべきだ。

高速道の料金 つぎはぎを直し公平に

高速道路の徴収期限を撤廃する方針を、国土交通省有識者会議がまとめた。維持費を利用者が支払うことは、利用と負担の関係が明らかで、税金投入より望ましいだろう。誰もが無料で使えるのが原則とされてきた。これまで新規建設費の捻出や、修繕・更新の必要がある度に、幾度となく無償化時期を延長してきた。人口減に直面する日本では、今あるインフラを長く使うことが望ましい。世代間の負担の公平性にも気を配り、永久有料化が避けられない理由や、どんな制度が望ましいか、国民に見える形で議論する必要がある。

産経新聞

入院基準の転換 今まで何をしていたのか

政府は新型コロナウイルス感染症の患者が急増する地域で、重症者や重症化のリスクがある患者以外を、自宅療養とする方針を打ち出した。事実上の入院制限だ。新型コロナは容態が急変することがある。病床確保の努力を放棄すべきでない。病床確保が困難なら、宿泊療養の利用を考えるべきだ。東京都では6千室あるうち、利用率は3割にとどまる。厚労省は、自宅や宿泊療養者に対して訪問診療やオンライン診療、訪問介護の充実を図る意向だが、対応可能な医療機関の数には地域差がある。入院もできず、家でも診療をうけられない、ということは絶対に避けてもらいたい。

『人口動態調査 一極集中の是正は急務だ』

総務省が発表した令和3年1月1日現在の人口動態調査で、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への転入超過が続いている。安倍晋三前政権は、一極集中是正の旗を振ってきたが、対策は地方活性化が優先され、東京圏の課題は後回しにされてきた。特に高齢者向けの施設やサービスが充実せず、医療機関介護施設の不足も懸念されている。一極集中は密になりやすい環境のため、新型コロナウイルス感染症の拡大にも影を落とす。注目したいのは地方移住への関心が高まっていることだ。一極是正について、今秋の衆院選で、与野党には活発に議論してほしい。

東京新聞

『入院の制限 救える命守れるか』

政府が新型コロナウイルス感染症の入院対象を、重症者と重症化リスクの高い人に限る方針を決めた。いつでも、だれでも、必要な医療を受けられる体制を整えることが政府の責務のはずだ。その原則を覆す重大な方針転換で、菅義偉首相は説明責任を果たすべきだ。首相の見通しは甘く、五輪開催を優先したと指摘されても仕方がない。野党は国会の閉会中審査などで政府に方針撤回を迫った。与党・公明党も撤回を含む再検討を求めている。病床確保を進め、感染拡大を抑えることで、救える命を確実に救いたい。

『米ロの戦略対話 核軍拡の流れをとめよ』

米国とロシアが軍備管理を協議する「戦略的安定対話」が始まった。戦略的安定とは、双方が核による先制攻撃に踏み切る危険が低い状況をいう。対話では、新戦略兵器削減条約(新START)に変わる新たな条約のほか、サイバー、宇宙空間も議論の対象となる。両国関係が冷戦終結後最悪の状況の中、対話の積み重ねによる緊張緩和を期待したい。不毛な軍拡競争を食い止めるため、世界の核兵器の九割を占める米ロに率先して軍縮を進める責任がある。そこから中国が加わる包括的な核管理の枠組み構築につなげてほしい。

毎日新聞

『五輪でのSNS中傷 選手守る仕組みが必要だ』

東京オリンピックに出場した選手に対し、ネット交流サービス(SNS)においての中傷が相次いでいる。SNSは選手とファンを直接つなぐ役割も果たし、ファンからの励ましのメッセージを力にしている選手も多い。だが、本人の尊厳を傷つけるような投稿は許させるはずがない。日本オリンピック委員会は選手に対する中傷を監視、記録している。協議に集中できるよう、メンタル面でのケアも欠かせない。SNSの長所短所を見極め、選手を守る仕組みを構築する必要がある。

『入院制限めぐる混乱 実態踏まえ仕切り直しを』

新型コロナウイルス感染症が急増する地域で入院規制する政府の方針に与党内でも反発が広がっている。衆院厚生労働委員会で、公明党議員は「酸素吸入が必要な中等症患者を自宅で診ることはあり得ない」と批判。自民党からも撤回を求める声が出ている。菅義偉政権の独善的な政策決定過程が浮き彫りになった。専門家や医療現場の声を聞かずに決めた。国民の生命に関わる政策は、科学的な根拠や現場の意見を踏まえて下すべきだ。十分な説明がないまま、迷走するようでは、国民の協力を得られるはずもなく、現場の混乱と国民の不信を招くだけだ。

読売新聞

『米GDP好調 リスクに目を配り安定成長に』

米国の2021年4〜6月期の実質GDP速報値は、前期比の年率換算で6.5%と、4四半期連続のプラス成長となり、規模ではコロナ禍前の19年10〜12月期を超えて、過去最大となった。個人消費の伸びが貢献した。ただ、気がかりなのはインフレである。6月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比で5.4%となり、約13年ぶりの高水準だ。物価水準が高いままだと、量的緩和の規模縮小が早まる可能性があり、金融市場への影響が懸念される。バイデン政権と議会は安定成長に向け、インフラ投資や育児・教育支援といった目玉政策の実現を急ぐべきだ。

『園児熱中症死 送迎バスでは点呼の徹底を』

福岡県中間市の私立保育園が運行する送迎バスの社内で、5歳の男児熱中症で死亡しているのが見つかった。朝、迎えのバスに乗り、その後約9時間にわたって放置されたと見られる。バスを運転していた女性園長は、バスを「降りたと思っていた」と話している。県は業務上過失致死の容疑で園を捜査。全国の保育園や幼稚園で、送迎バスの運行や管理体制に問題がないか、改めて点検する必要がある。一般家庭でも、車内に取り残された幼児が亡くなる事例がある。車を利用する人の不注意は人命に関わると、誰もが肝に命じることが大切だ。