shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月6日の社説

朝日新聞

被爆76年の世界 核廃絶へ日本が先頭に立て』

米国と中国の覇権争いを筆頭に、欧州、アジア、中東で国家間の対立が熱を帯び、核戦争の不安を高めている。一方、国家間の枠組みを超え「核なき世界」を目指す潮流も勢いづく。中華人民共和国の成立から9年後、中国が台湾の金門島を砲撃した際、米国は中国軍基地への核攻撃を検討した。ときの大統領の判断で攻撃は回避されたが、沖縄へのソ連の核攻撃も受け入れるという主戦論があった事実に慄然とする。日本政府は台湾有事があれば、限定的とはいえ集団的自衛権を行使できるよう憲法解釈を変えている。そんななか、米ロは首脳会談で「核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならない」という声明を発した。核保有国は、核不拡散防止条約が定める軍縮交渉義務に背を向けている一方、新興国の核開発を許さない身勝手な態度で、軍備管理のモラルを侵食してきた。バイデン米大統領は核の先制不使用宣言を実現させ、中国との対話機運を醸成してもらいたい。非核保有国と国際世論で核廃絶の歯車を回すという志から、核兵器禁止条約が今年発行した。来年は、初の締約国会議がある。核実験の被害者支援や環境回復を進める上で、唯一の被爆国である日本の教訓と知見は生かせる。まずは、オブザーバー参加し、国際社会との連帯を示すべきだ。

産経新聞

原爆の日 覚悟持ち独自の道を進め』

広島は76回目の原爆の日を迎えた。原爆の惨禍を直接知る人が減る一方で、世界での核の脅威は増大の一途をたどっている。核兵器の開発や実験、保有、使用を全面的に禁止する核兵器禁止条約が、50の国・地域で発行した。この条約に日本は加わっていないが、非難は短絡的だ。米露中英仏をはじめ、核保有国は一国も加わっておらず、北大西洋条約機構NATO)加盟国や韓国など、米国の核抑止力(核の傘)を利用する国も同様だ。唯一の被爆国である日本は、広島や長崎の悲劇を世界に伝え続ける責務がある。そして、現実的見地から平和を追求し続ける覚悟が必要だ。

『太田氏が新委員に 時代先読みIOCに風を」』

フェイシングの五輪銀メダリストの太田雄貴氏が国際オリンピック委員会IOC)のアスリート委員に当選した。任期は2028年のロサンゼルス五輪までで、IOC委員も務める。アスリート委員会は現役選手や元選手らの声を反映させるため、1981年に創設された。日本フェイシング協会の会長を約4年務めた太田氏は、国内大会で選手の心拍数をモニター表示するなど、選手の内側を可視化したアイデアマンだ。協議現場と組織運営の両方を熟知している太田氏には、IOCに新風を吹き込んでもらいたい。IOCが抱える不透明な内側を可視化することも、期待したい。

東京新聞

原爆忌に考える 被爆地にともる「聖火」』

長崎市爆心地公園の一角に「長崎を最後の被爆地とする誓いの灯」とする「聖火」が毎月9日と8月6日にともされます。核兵器が完全禁止されるまで、長崎市民有志が守り続ける祈りの灯です。ギリシャから、五輪と同様太陽から採火されました。「聖火をください」とギリシャ政府に呼びかけた平和運動家の渡辺千恵子さんは、十六歳のとき、勤労動員された軍需工場で被爆。下半身不随になりながらも、車いすで世界を巡り、核廃絶を訴え続けました。首都東京では今日も五輪の聖火が燃えています。国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長は、先月十六日、広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花したあと被爆者と面談し、「五輪を通じて世界平和に貢献したい」とメッセージを出しました。被爆地と被災者への敬意、そして五輪が掲げる平和の理念が真実なら、広島で原爆が炸裂した今日六日八時十五分に、選手たちに黙祷を呼びかけてほしいとの広島市などの申し出を、なぜIOCが拒絶したのか不可解です。視聴率至上、商業主義のうねりの中、五輪の理念を世界で唯一の戦争被爆国で再認識してもらいたい。明後日、聖火は再び太陽へ還ります。新しい希望の種火を、ヒロシマナガサキ、そして世界に残していきますように。

毎日新聞

『広島・長崎「原爆の日」 核の恐ろしさ共有する時』

1945年夏、2度にわたる米軍の原子爆弾投下により、20万人を超える市民が犠牲になった。今なお健康被害に苦しむ多くの人がいる。広島市基町高校の生徒が被爆者から体験談を聞き取り、想像した光景を描く「原爆の絵」活動がある。88歳になる笠岡貞江さんが、被爆後、父親を棺におさめ、木切れを集めて火葬した体験を、高校2年の田邉萌奈美さんが「兄弟で父親を火葬」と題する絵で再現した。2007年から始まった活動で制作された絵は190点に上る。「核のリスクはここ40年で最高レベルにある」とは、国連で軍縮を担当する中満泉事務次官による警告だ。米国とロシア、中国は軍拡競争に血眼になっている。米コロラド大などの科学者が、インドとパキスタンが核戦争に陥った場合、都市部の数千万人が爆死し、舞い上がったすすが太陽光を遮り穀物生産量が20%近く落ち込むとの試算を発表した。バイデン米大統領が今年7月16日を「全米被爆兵士の日」に指定した。1945年に世界初の原爆実験「トリニティ実験」が行われた日だ。核廃絶を国際的な規範とする核兵器禁止条約が発行した意義を改めて認識すべきだ。参加していない日本も理念を共有する姿勢を打ち出す必要がある。ひとりひとりが想像力を働かせれば、惨劇を繰り返さない道につながるはずだ。

読売新聞

原爆忌 平和を希求する思い世界に』

原爆投下から広島は6日、長崎は9日で76年目となる。新型コロナの感染拡大で、広島市の平和記念資料館を訪れた人は減少健康にある。オンラインによる情報発信などの工夫は大切だ。今年1月、核兵器禁止条約が発行したが、核保有国だけでなく、核の傘に守られている国も参加していない。核兵器保有する北朝鮮や、保有が懸念されるイランに核を断念させ、それから建設的な形で軍縮協議を進めることが肝要だ。そうした現実的な努力を主導することが、唯一の被爆国であり、核兵器保有国に囲まれる日本の責務と言えよう。

『五輪SNS中傷 毅然とした対応で選手を守れ』

東京五輪出場選手らへの、SNS上の誹謗中層が相次ぐ。SNSは選手とファンをつなぐ一方、匿名で投稿できるため、誹謗中傷につながりやすい。汚い言葉で選手を罵る行為は、自らの人格を貶めるものだと自覚すべきだ。日本オリンピック委員会JOC)は、悪意ある投稿を監視し、記録していることを明らかにした。悪質なものは捜査当局へ通報を検討するという。悪質な書き込みには、警察は捜査を徹底してほしい。SNS事業者も、問題のある投稿を削除するなど対策を強化しなければならない。法的措置を含め、毅然とした対応をとることが重要だ。