shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月5日の社説

●令和3年8月5日の社説

朝日新聞

馬毛島の基地 地元の懸念に向き合え

鹿児島県西表市の無人島・馬毛島自衛隊基地を造り、米軍機などの訓練を実施する計画を立てている。騒音被害や自然破壊への疑念に、政府は説明責任を果たさなければならない。防衛省が示した環境影響評価(アセス)に、塩田康一知事は52項目の注文をつけた。問題は、自衛隊機の訓練や施設について、具体的な内容を示していない点だ。アセスがずさんでは地元住民や自治体は適切な判断を下せず、対立が将来に続く。地元の理解なくしては、基地の安定的な運用はないことを政府は肝に銘じるべきだ。

高速道の料金 つぎはぎを直し公平に

高速道路の徴収期限を撤廃する方針を、国土交通省有識者会議がまとめた。維持費を利用者が支払うことは、利用と負担の関係が明らかで、税金投入より望ましいだろう。誰もが無料で使えるのが原則とされてきた。これまで新規建設費の捻出や、修繕・更新の必要がある度に、幾度となく無償化時期を延長してきた。人口減に直面する日本では、今あるインフラを長く使うことが望ましい。世代間の負担の公平性にも気を配り、永久有料化が避けられない理由や、どんな制度が望ましいか、国民に見える形で議論する必要がある。

産経新聞

入院基準の転換 今まで何をしていたのか

政府は新型コロナウイルス感染症の患者が急増する地域で、重症者や重症化のリスクがある患者以外を、自宅療養とする方針を打ち出した。事実上の入院制限だ。新型コロナは容態が急変することがある。病床確保の努力を放棄すべきでない。病床確保が困難なら、宿泊療養の利用を考えるべきだ。東京都では6千室あるうち、利用率は3割にとどまる。厚労省は、自宅や宿泊療養者に対して訪問診療やオンライン診療、訪問介護の充実を図る意向だが、対応可能な医療機関の数には地域差がある。入院もできず、家でも診療をうけられない、ということは絶対に避けてもらいたい。

『人口動態調査 一極集中の是正は急務だ』

総務省が発表した令和3年1月1日現在の人口動態調査で、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への転入超過が続いている。安倍晋三前政権は、一極集中是正の旗を振ってきたが、対策は地方活性化が優先され、東京圏の課題は後回しにされてきた。特に高齢者向けの施設やサービスが充実せず、医療機関介護施設の不足も懸念されている。一極集中は密になりやすい環境のため、新型コロナウイルス感染症の拡大にも影を落とす。注目したいのは地方移住への関心が高まっていることだ。一極是正について、今秋の衆院選で、与野党には活発に議論してほしい。

東京新聞

『入院の制限 救える命守れるか』

政府が新型コロナウイルス感染症の入院対象を、重症者と重症化リスクの高い人に限る方針を決めた。いつでも、だれでも、必要な医療を受けられる体制を整えることが政府の責務のはずだ。その原則を覆す重大な方針転換で、菅義偉首相は説明責任を果たすべきだ。首相の見通しは甘く、五輪開催を優先したと指摘されても仕方がない。野党は国会の閉会中審査などで政府に方針撤回を迫った。与党・公明党も撤回を含む再検討を求めている。病床確保を進め、感染拡大を抑えることで、救える命を確実に救いたい。

『米ロの戦略対話 核軍拡の流れをとめよ』

米国とロシアが軍備管理を協議する「戦略的安定対話」が始まった。戦略的安定とは、双方が核による先制攻撃に踏み切る危険が低い状況をいう。対話では、新戦略兵器削減条約(新START)に変わる新たな条約のほか、サイバー、宇宙空間も議論の対象となる。両国関係が冷戦終結後最悪の状況の中、対話の積み重ねによる緊張緩和を期待したい。不毛な軍拡競争を食い止めるため、世界の核兵器の九割を占める米ロに率先して軍縮を進める責任がある。そこから中国が加わる包括的な核管理の枠組み構築につなげてほしい。

毎日新聞

『五輪でのSNS中傷 選手守る仕組みが必要だ』

東京オリンピックに出場した選手に対し、ネット交流サービス(SNS)においての中傷が相次いでいる。SNSは選手とファンを直接つなぐ役割も果たし、ファンからの励ましのメッセージを力にしている選手も多い。だが、本人の尊厳を傷つけるような投稿は許させるはずがない。日本オリンピック委員会は選手に対する中傷を監視、記録している。協議に集中できるよう、メンタル面でのケアも欠かせない。SNSの長所短所を見極め、選手を守る仕組みを構築する必要がある。

『入院制限めぐる混乱 実態踏まえ仕切り直しを』

新型コロナウイルス感染症が急増する地域で入院規制する政府の方針に与党内でも反発が広がっている。衆院厚生労働委員会で、公明党議員は「酸素吸入が必要な中等症患者を自宅で診ることはあり得ない」と批判。自民党からも撤回を求める声が出ている。菅義偉政権の独善的な政策決定過程が浮き彫りになった。専門家や医療現場の声を聞かずに決めた。国民の生命に関わる政策は、科学的な根拠や現場の意見を踏まえて下すべきだ。十分な説明がないまま、迷走するようでは、国民の協力を得られるはずもなく、現場の混乱と国民の不信を招くだけだ。

読売新聞

『米GDP好調 リスクに目を配り安定成長に』

米国の2021年4〜6月期の実質GDP速報値は、前期比の年率換算で6.5%と、4四半期連続のプラス成長となり、規模ではコロナ禍前の19年10〜12月期を超えて、過去最大となった。個人消費の伸びが貢献した。ただ、気がかりなのはインフレである。6月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比で5.4%となり、約13年ぶりの高水準だ。物価水準が高いままだと、量的緩和の規模縮小が早まる可能性があり、金融市場への影響が懸念される。バイデン政権と議会は安定成長に向け、インフラ投資や育児・教育支援といった目玉政策の実現を急ぐべきだ。

『園児熱中症死 送迎バスでは点呼の徹底を』

福岡県中間市の私立保育園が運行する送迎バスの社内で、5歳の男児熱中症で死亡しているのが見つかった。朝、迎えのバスに乗り、その後約9時間にわたって放置されたと見られる。バスを運転していた女性園長は、バスを「降りたと思っていた」と話している。県は業務上過失致死の容疑で園を捜査。全国の保育園や幼稚園で、送迎バスの運行や管理体制に問題がないか、改めて点検する必要がある。一般家庭でも、車内に取り残された幼児が亡くなる事例がある。車を利用する人の不注意は人命に関わると、誰もが肝に命じることが大切だ。