shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月2日の社説

朝日新聞

『防災とダム 課題や危うさ忘れるな』

近畿各府県を流れる淀川水系で予定される大戸川ダム(大津市)の本体工事が動き出す。大戸川ダムが洪水時に水位を下げる効果は、淀川の大阪府枚方市で20センチあまり。完成には10年かかり、堤防の強化こそ急ぐべきという専門家の声も少なくない。ダムについては、愛媛県で「緊急放流」を巡る裁判が続いている。放流で下流域の被害が拡大したとして、被災者が国と地元自治体に損害賠償を求めている。あらゆる方策で防災に努めるのは当然だが、ダムの功罪の見極めをおろそかにしてはならない。

『「人新世」 地球の限界を考える』

人類が地球に影響を与えた時代を「人新世」と名づけ、地質時代の正式な区分とすることを国際組織が検討している。「じんしんせい」、あるいは「ひとしんせい」と呼ばれる。地球の歴史で、現在は1万1700年前から続く「新生代第四紀完新世」にあり、ここから人類の活動が地質に刻まれた時代を独立させようということだ。核実験による放射性物質、プラスチックなどが地層に残り、地球規模で変化が起きた1950年代を、人新生の始まりとする考えが有力。地球の破壊ピードを遅らせ、破局を遅らせるには何をすべきか。「人新生」を手がかりに、地球的視点で私たちの生き方を考えてみよう。

産経新聞

『サイバー防衛 自衛のため攻撃力保有を』

米国と日本、北大西洋条約機構NATO)、欧州連合EU)、英国やカナダなどで機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」構成国が、サイバー空間での中国の無法行為を一斉非難した。日本は米英などの声明を強く支持。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の報告書は、日本のサイバー、デジタル分野での総合力は主要国中最下位グループだと指摘した。サイバー攻撃への対処で日本が弱い環になってはいけない。サイバー分野ばかりの防衛策では攻撃を防ぐのは難しい。抑止効果を生む攻撃能力も培う必要がある。

雇用調整助成金 安全網の財源確保を急げ』

厚生労働省は、雇用調整助成金の上限額や助成率を引き上げた特別措置を、今年末まで延長する方針だ。コロナ禍の収束が見通せない中、雇用の安全網として助成金の特例延長は当然といえる。ただ、財源枯渇の恐れがあるため、必要な財政確保も急ぐべきだ。本助成金は、経営悪化の企業が従業員の雇用を維持した場合に助成される。今年の労働経済白書では、特例措置で昨年4~10月の完全失業率を2.6%ポイント抑える効果があったとする。必要に応じ、国庫負担なども柔軟に検討し、雇用の安全網を整備すべきだ。

東京新聞

『教育改革 近道も特効薬もない』

教員免許更新制が廃止される見通しだ。安倍晋三政権当時の有識者会議での提言に基づき、不適当な教員を排除することを含め、指導力向上の看板政策としていた。三十時間以上の講習は、教師への負担が大きく、中には免許を更新せず、人出不足に拍車がかかった。採用試験競争倍率も下がっている。大混乱を招いた大学入学共通テストへの英語民間試験と記述式問題導入も、7月末に断念している。派手な改革の頓挫は、長期的な視点が必要な教育に、近道も特効薬もないことを教えてくれる。

毎日新聞

『子宮移植の容認 倫理・医療面で問題多い』

日本医学会の検討委員会が「子宮移植」について容認する報告書をまとめた。海外では今年3月時点で、85例の子宮移植が実施され、40例で出産が報告されている。ただ、倫理と医療の両面で問題が多い。倫理面では、生命維持に必須ではない臓器移植にあたること。医療面では、ドナーも移植を受ける側も手術のリスクが高く、免疫抑制剤使用の胎児への影響が分からない。自由意志の尊重にも疑念が残る。生命倫理に深く関わる問題について、国民の理解が醸成されているとは言いがたい。移植医療のあるべき姿から議論しなければならない。

『コロナと財政見通し 危機隠す見せかけの改善』

菅義偉政権が基礎的財政収支の見通しを公表した。新型コロナ感染症の影響から、黒字化は2029年度にずれ込むとされていたが、今回は2年も前倒しされた。改善の根拠としては、年3%を超す高い経済成長が長期間続くことを前提としている。国民生活を支える支出を惜しんではならないが、選挙目当ての放漫財政は許されない。菅政権は現実を踏まえ、財政立て直しの道筋を描きなおすべきだ。高収益企業や富裕層への課税強化も検討が必要だ。コロナ化で深刻化した格差是正につながるはずだ。

読売新聞

『中国のIT企業 共産党統治の道具と化すのか』

中国が国内IT企業への統制を強めている。欧米や日本も巨大IT企業が有利な立場での取引を乱用したり、課税逃れがないよう、注視している。中国の規制は、日米欧とは異なる。習近平国家主席は「企業は中国共産党と一心同体でなければならない」と指示している。自由経済や法の支配を重視する日米欧の価値観とは相容れない一党独裁下での統制は、いずれ限界があることを習氏は認識ずべきだ。中国進出の外国企業も統制強化に直面している。日米欧は不当な規制に断固反対の姿勢を示さねばならない。

『大学入試改革 現場の声軽視が失敗を招いた』

有識者会議の提言を受け、荻生田文部科学相が、大学入学共通テストへの記述式問題と英語民間試験の導入を断念すると表明した。記述式で思考力や表現力を問い、英語の技能をバランスよく測ることに、多くの教育関係者も異論はないだろう。ただ、50万人近い受験生が一斉に受ける共通テストに導入する場合に、公平性をどう確保するか解決しておくべきだった。有識者会議は、高校生や教員からの意見を聞き、大学へのアンケートを実施した。現場の意見を改革に生かしてほしい。