shasetu’s diary〜新聞5紙の社説を要約〜

新聞5紙の社説を要約し、読み比べできるようにしました

令和3年8月5日の社説

●令和3年8月5日の社説

朝日新聞

馬毛島の基地 地元の懸念に向き合え

鹿児島県西表市の無人島・馬毛島自衛隊基地を造り、米軍機などの訓練を実施する計画を立てている。騒音被害や自然破壊への疑念に、政府は説明責任を果たさなければならない。防衛省が示した環境影響評価(アセス)に、塩田康一知事は52項目の注文をつけた。問題は、自衛隊機の訓練や施設について、具体的な内容を示していない点だ。アセスがずさんでは地元住民や自治体は適切な判断を下せず、対立が将来に続く。地元の理解なくしては、基地の安定的な運用はないことを政府は肝に銘じるべきだ。

高速道の料金 つぎはぎを直し公平に

高速道路の徴収期限を撤廃する方針を、国土交通省有識者会議がまとめた。維持費を利用者が支払うことは、利用と負担の関係が明らかで、税金投入より望ましいだろう。誰もが無料で使えるのが原則とされてきた。これまで新規建設費の捻出や、修繕・更新の必要がある度に、幾度となく無償化時期を延長してきた。人口減に直面する日本では、今あるインフラを長く使うことが望ましい。世代間の負担の公平性にも気を配り、永久有料化が避けられない理由や、どんな制度が望ましいか、国民に見える形で議論する必要がある。

産経新聞

入院基準の転換 今まで何をしていたのか

政府は新型コロナウイルス感染症の患者が急増する地域で、重症者や重症化のリスクがある患者以外を、自宅療養とする方針を打ち出した。事実上の入院制限だ。新型コロナは容態が急変することがある。病床確保の努力を放棄すべきでない。病床確保が困難なら、宿泊療養の利用を考えるべきだ。東京都では6千室あるうち、利用率は3割にとどまる。厚労省は、自宅や宿泊療養者に対して訪問診療やオンライン診療、訪問介護の充実を図る意向だが、対応可能な医療機関の数には地域差がある。入院もできず、家でも診療をうけられない、ということは絶対に避けてもらいたい。

『人口動態調査 一極集中の是正は急務だ』

総務省が発表した令和3年1月1日現在の人口動態調査で、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への転入超過が続いている。安倍晋三前政権は、一極集中是正の旗を振ってきたが、対策は地方活性化が優先され、東京圏の課題は後回しにされてきた。特に高齢者向けの施設やサービスが充実せず、医療機関介護施設の不足も懸念されている。一極集中は密になりやすい環境のため、新型コロナウイルス感染症の拡大にも影を落とす。注目したいのは地方移住への関心が高まっていることだ。一極是正について、今秋の衆院選で、与野党には活発に議論してほしい。

東京新聞

『入院の制限 救える命守れるか』

政府が新型コロナウイルス感染症の入院対象を、重症者と重症化リスクの高い人に限る方針を決めた。いつでも、だれでも、必要な医療を受けられる体制を整えることが政府の責務のはずだ。その原則を覆す重大な方針転換で、菅義偉首相は説明責任を果たすべきだ。首相の見通しは甘く、五輪開催を優先したと指摘されても仕方がない。野党は国会の閉会中審査などで政府に方針撤回を迫った。与党・公明党も撤回を含む再検討を求めている。病床確保を進め、感染拡大を抑えることで、救える命を確実に救いたい。

『米ロの戦略対話 核軍拡の流れをとめよ』

米国とロシアが軍備管理を協議する「戦略的安定対話」が始まった。戦略的安定とは、双方が核による先制攻撃に踏み切る危険が低い状況をいう。対話では、新戦略兵器削減条約(新START)に変わる新たな条約のほか、サイバー、宇宙空間も議論の対象となる。両国関係が冷戦終結後最悪の状況の中、対話の積み重ねによる緊張緩和を期待したい。不毛な軍拡競争を食い止めるため、世界の核兵器の九割を占める米ロに率先して軍縮を進める責任がある。そこから中国が加わる包括的な核管理の枠組み構築につなげてほしい。

毎日新聞

『五輪でのSNS中傷 選手守る仕組みが必要だ』

東京オリンピックに出場した選手に対し、ネット交流サービス(SNS)においての中傷が相次いでいる。SNSは選手とファンを直接つなぐ役割も果たし、ファンからの励ましのメッセージを力にしている選手も多い。だが、本人の尊厳を傷つけるような投稿は許させるはずがない。日本オリンピック委員会は選手に対する中傷を監視、記録している。協議に集中できるよう、メンタル面でのケアも欠かせない。SNSの長所短所を見極め、選手を守る仕組みを構築する必要がある。

『入院制限めぐる混乱 実態踏まえ仕切り直しを』

新型コロナウイルス感染症が急増する地域で入院規制する政府の方針に与党内でも反発が広がっている。衆院厚生労働委員会で、公明党議員は「酸素吸入が必要な中等症患者を自宅で診ることはあり得ない」と批判。自民党からも撤回を求める声が出ている。菅義偉政権の独善的な政策決定過程が浮き彫りになった。専門家や医療現場の声を聞かずに決めた。国民の生命に関わる政策は、科学的な根拠や現場の意見を踏まえて下すべきだ。十分な説明がないまま、迷走するようでは、国民の協力を得られるはずもなく、現場の混乱と国民の不信を招くだけだ。

読売新聞

『米GDP好調 リスクに目を配り安定成長に』

米国の2021年4〜6月期の実質GDP速報値は、前期比の年率換算で6.5%と、4四半期連続のプラス成長となり、規模ではコロナ禍前の19年10〜12月期を超えて、過去最大となった。個人消費の伸びが貢献した。ただ、気がかりなのはインフレである。6月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比で5.4%となり、約13年ぶりの高水準だ。物価水準が高いままだと、量的緩和の規模縮小が早まる可能性があり、金融市場への影響が懸念される。バイデン政権と議会は安定成長に向け、インフラ投資や育児・教育支援といった目玉政策の実現を急ぐべきだ。

『園児熱中症死 送迎バスでは点呼の徹底を』

福岡県中間市の私立保育園が運行する送迎バスの社内で、5歳の男児熱中症で死亡しているのが見つかった。朝、迎えのバスに乗り、その後約9時間にわたって放置されたと見られる。バスを運転していた女性園長は、バスを「降りたと思っていた」と話している。県は業務上過失致死の容疑で園を捜査。全国の保育園や幼稚園で、送迎バスの運行や管理体制に問題がないか、改めて点検する必要がある。一般家庭でも、車内に取り残された幼児が亡くなる事例がある。車を利用する人の不注意は人命に関わると、誰もが肝に命じることが大切だ。

令和3年8月4日の社説

朝日新聞

『熱海の土石流 「国土を測る」を着実に』

静岡県熱海市で起きた土石流災害の解明に測量データが貢献している。問題となった不適切な盛り土について、詳細な標高データがあったため、土が運ばれた前後、そして災害後の状況を比較することができた。熱海のようにデータ揃っている地域は稀である。災害の危険度が高いところや、開発で変化が大きかった場所はデータ更新の頻度を高めるなど、着実に利用・提供できるよう人員や経費の確保に努めてほしい。

入院方針転換 「自宅急変」に備え急げ

コロナ感染者が急増する地域では、重症者か重症化する恐れが高い人に限り、中等症でもリスクが高くない場合は自宅療養を基本とする方針を政府が打ち出した。限られた医療資源を重症者から提供するためだ。ただ、コロナの特徴は軽症と判断されても、急変する場合がある。これまで楽観論を振りまいてきた菅首相小池都知事の責任は重い。政府は春以降、病床と療養施設の確保に取り組むとしてきたが、実現できないままこの状況に至った。根拠なき楽観主義と場当たり的な対応から決別しなければ、事態は悪化するばかりだ。

産経新聞

『五輪のおもてなし 最後まで熱戦を支えたい』

東京五輪に参加する海外選手たちが、日本が提供するホスピタリティーの高さを評価している。自動走行の電動バスや衛生管理を徹底した食堂、24時間体制の警備による治安の良さなど、SNS上に好意的な声が寄せられている。「おもてなし」は、招致の際に日本が世界に掲げた公約だ。選手らはコロナ禍の厳しい環境化でも、日本側の歓待に笑顔で応えてくれる。ホスト国として感謝を忘れてはなるまい。選手らに「五輪が東京でよかった」という思い出を持ち帰ってもらうためにも、「おもてなし」の気持ちを忘れず、大会を支え続けたい。

『コロナの新治療薬 在宅患者向けにも工夫を』

7月に特例承認された新治療薬「抗体カクテル療法」が、新型コロナの新たな治療法の重要な布石になるだろう。入院や死亡のリスクを7割程度下げる効果が期待される。重症化リスクのある患者に使う想定だが、問題は、該当患者に確実かつ適切に投与できるかだ。入院患者を対象と想定しているが、それでは不十分だ。政府は重症や重症化リスクの高い患者を優先的に入院させる方針を示している。入院に限らず、発熱外来や訪問診療などで使えるよう工夫すべきだ。新治療薬の使用でワクチン接種のような不手際があってはならない。

東京新聞

『介護職員の不足 待遇改善を抜本的に』

厚生労働省が、高齢者を介護する職員が二〇四〇年度には約七十万に不足する見通しを示した。なり手不足が顕著である。介護職は、人命を預かる精神的負担が大きい上に勤務時間が不規則で力仕事が多いわりに、それに見合う賃金水準に達していないことも、敬遠される大きな原因だろう。処遇改善のために介護報酬を引き上げれば、介護保険料や利用者の自己負担増につながる。ある程度の負担はやむを得ないが、介護報酬とは別に、公費投入の仕組みも検討が必要ではないか。少子化に伴い家族だけでは介護はますます厳しくなり、介護職員はより必要な存在だ。

『五輪と福島 「復興」掛け声だけでは』

五輪・パラリンピックの競技会場が林立する東京都江東区で、福島からの避難者たちが住まいを追われかけている。「復興五輪」の理念を実現していない。福島県は、国家公務員宿舎・東雲受託に住む三十四世帯に立ち退きを迫り、応じなければ法的措置を取るという文書を送付した。いずれも避難指示区域外からの避難者だで、二〇一七年に無償提供が打ち切られ、現在は通常家賃の二倍を請求されている。五輪本番でも福島に光が当たる場面はわずかだ。原発事故からの復興は、被災者に寄り添いながら時間をかけて取り組むしかない。

毎日新聞

『熱海土石流から1カ月 盛り土の規制強化が急務』

22人が死亡し、5人が行方不明のままの、静岡県熱海市で発生した土石流災害から1カ月がたった。これまでの県の調査から、「人災」の疑いも浮上している。崩落した土砂の大半は盛り土で、総量は市への届出の2倍、高さは県条例で定める上限の3倍以上と推定される。行政側が条例違反をなぜ見過ごしたのかなど、徹底解明が求められる。今回のような残土処分の盛り土には、各自治体の条例が適用させるが、規制内容にはばらつきがある。罰則規定もまちまちだ。全国一律で規制する法律を早急に整備すべきだ。

『コロナの入院制限 患者切り捨てにならぬか』

新型コロナウイルスの感染者が急増している地域で、入院対象者を制限する方針を政府が示した。制限は中等症のうち、重症化リスクが低い患者が対象で、医師らの判断で自宅療養に切り替える。コロナは症状が急変するケースも多数。専門家は、変異株で患者が急増する可能性を以前から指摘していたが、政府の対応は遅れた。ワクチン頼みの楽観的な姿勢で、医療体制の拡充を怠ったツケが回ってきているのではないか。政府はこの事態を認め、方針転換の目的と課題を丁寧に国民へ説明しなければ、理解は得られない。

読売新聞

ミャンマー情勢 国際社会は軍の増長を許すな』

ミャンマー軍のクーデターから半年、軍の意思決定機関「国家統治評議会」がミン・アウン・フライン最高司令官を首相とする暫定政府の発足を発表した。昨年、民主派政党が圧勝した総選挙を無効とし、2023年8月までに改めて総選挙を行うという。コロナ禍で、軍が医療用酸素などを抱え込み、多くの市民が適切な医療を受けれず、避難民向けの支援物資も軍が妨害し届かいない。人道危機状態を放置してきた国際社会の責任は大きい。日米欧は制裁に後ろ向きな中露も巻き込んだ形で軍に圧力をかけ、ミャンマー国民を支援すべきだ。

『コロナ自宅療養 症状の急変に対応できるのか』

政府は、入院を重症者や重症化の恐れが強い人に限定し、中等症者や軽症者は自宅療養を原則にするという。自宅療養で家族への感染を防ぎながらの療養は難しいだろう。重症化の判断は難しく、手遅れになる懸念もある。病床確保の重要性は以前から指摘されてきたが、これまでの政府や自治体の取り組みは、不十分だったのは明らかだ。政府はこれまで、人口比で全国にワクチンを配布してきたが、感染拡大の中心地への傾斜配分も必要ではないか。その場しのぎの対応の繰り返しでは、コロナ収束は見通せない。

令和3年8月3日の社説

朝日新聞

「桜」不起訴不当 安倍氏は喚問で説明を』

検察審査会が安倍前政権下の「桜を見る会」を巡る問題で、不起訴の一部を不当と議決した。東京地検特捜部は判断を重く受け止め、徹底した再捜査を行わなければならない。秘書らが政治資金規正法違反の罪で略式起訴されたが、安倍氏は知らなかったと釈明していた。議決では首相まで務めた政治家が、関知しないというのでは、「国民感情として納得できない」とし、「説明責任を果たすべきである」と指摘。やはり、ウソをつけば偽証罪に問われる証人喚問で安倍氏に真相をただすしかあるまい。与党は閉会中審査に応じるべきだ。

ミャンマー 暫定政府はまやかしだ』

ミャンマーで2月にクーデターを起こした国軍が、暫定政府を発足させた。再来年の8月まで総選挙を行うとし、民主体制への意向を示し国際社会からの非難を和らげたい思惑だ。これまで、国軍により940人の市民が殺害されている。クーデターによる経済低迷にコロナ禍が重なり、市民の生活には支障が出ている。背景には公務員や医療従事者の不服従運動による職場放棄があるが、多くの市民は運動を指示する。日本政府は、市民生活への影響も配慮しつつ、ODAの全面停止など制裁の強化を模索すべきだ。

産経新聞

『クーデター半年 国軍の暴走を放置するな』

ミャンマでクーデターを起こした国軍に対し、国連安全保障理事会東南アジア諸国連合ASEAN)が有効な手を打てずにいる。国軍設置の選挙管理委員会は7月26日、アウン・サン・スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した昨年11月の総選挙で、NLDに不正があったと断定し、無効を発表した。国連安保理が強い措置に出ないのは、中国とロシアが反対しているからだ。安保常任理事国として無責任極まりない。さらに「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げる日本の顔が、ミャンマー問題では一向に見えない。言語一致の外交を展開してもらいたい。

『「記述式」断念 教育内容の改革が必要だ』

萩生田光一文部科学相が、有識者会議の提言を受け、大学入学共通テストでの記述式問題と英語民間試験の導入を断念することを正式表明した。知識偏重の1点刻みのテストからの脱却を掲げた改革の柱にしていたが、採点制度や受験機会の公平性などに問題があると指摘され、今年の導入を見送っていた。有識者会議は、「理念や結論が過度に先行し、実務的な課題の解決に向けた検討が不十分にならないようにする必要がある」と戒めた。文科省や大学は、入学後のカリキュラムなど教育内容改善に力を注いだらどうか。

東京新聞

『 益川さんを悼む 平和訴え続けた科学者』

素粒子研究でノーベル物理学賞を受賞した名古屋大特別教授・京都大名誉教授の益川敏英さんが亡くなった。平和運動にも熱心に取り組む一面があった。益川さんが際立ったのは、相次ぐ「平和」や「反戦」への発言と、「学問の独立」への毅然とした態度だった。受賞以前に設立された「九条科学者の会」の呼びかけ人の一人で、護憲の立場を強く訴えた。日本学術会議の会員候補任命拒否問題には、「学問の自由が奪われれば、科学は政治の召し使いになる」と批判。権力への「忖度」とは対極にある益川さんの生き方を深く心にとどめ続けたい。

『五輪と平和 戦場にも思いをはせたい』

国連総会決議に基づく「五輪休戦」中だが、世界では戦火がやまない。東京五輪開会式では一九七二年のミュンヘン五輪開催中に殺害されたイスラエル選手・コーチら十一人への黙祷が捧げられた。国連総会は、加盟国に恒例の五輪休戦を呼びかけたが、イエメンなどでは戦火が続く。かねて五輪は政治や国際紛争から自由ではなかった。「平和の祭典」は現実離れしているが、理想としての意味はある。世界各地の戦場に思いをはせる機会として五輪を位置付け直せないものだろうか。

毎日新聞

『国境炭素税と日本 公平なルール作り主導を』

温室効果ガスの排出規制が緩い国・地域からの輸入品に「国境炭素税」を、欧州連合EU)が2026年に導入する。EUの進める排出規制強化は、規制が甘い国への企業移転を誘発しかねない。自国産業を守りつつ、財源を得る効果も期待される。課題は、保護主義的な貿易への懸念と、透明性の確保だ。そして、脱炭素で遅れる途上国側の反発もある。各国が納得する仕組みが求められる。日本は国内の制度整備も急務だ。長期的な視点で、戦略を立てる司令塔を定め、対策を進めなければならない。

ミャンマー政変から半年 国際社会が圧力強める時』

ミャンマーの国軍によるクーデターから半年。この間、国軍に殺害された市民は940人に上り、7000人近くが逮捕された。拷問も行われているという。国軍は、昨年総選挙を無効と宣言し、2023年8月までに総選挙を実施するという。国軍系政党に勝たせ、形ばかりの民政移管を演出しようとしているようだ。国際社会は、有効な手を打てずにいる。経済、軍事両面でミャンマーと関係が深いロシアと中国の反対で、国連安全保障理事会は強い措置を取れていない。日米中露など周辺諸国を加えて開かれる外相レベル会合を通じ、事態打開への糸口を探るべきだ。

読売新聞

『アフガン情勢 タリバン復権を許すのか』

米軍撤退後、タリバンがアフガン政府の治安部隊に対する攻勢を強め、国土の半分以上を統制下に置いた。タリバンは、2001年米同時テロの首謀者をかくまった疑いで米軍から攻撃を受け、一度は崩壊した。タリバン復権は、再びアフガンをテロの温床と化すことにつながりかねない。タリバンは、イスラム法を厳格に解釈した人権軽視の統治を基本とする。バイデン政権のシナリオは甘いものとの非難は免れない。タリバンへの接近をすすめる中国とロシアは、関係伸展を米国との覇権争いの道具にするのではなく、地域安定に活用しなければならない。

『政府の財政試算 楽観的予測では健全化遠のく』

このほど内閣府が中長期の財政試算を発表した。2027年度には黒字に転じるという見通しだ。試算における経済成長率は名目で3%を超えると予想し、それによって税収が伸びるとする。ただ、近年、日本の潜在成長率は1%にも満たない。与党内では、次期衆院選に向け、大規模経済対策を求める声が強まっている。楽観的な見通しが、財政規律を緩めることにつながる問題は大きい。政府は基礎的財政収支黒字化の達成時期について、年度内に再検証するとしているが、それを機に歳出・歳入改革の方策を打ち出すことが不可欠だ。

令和3年8月2日の社説

朝日新聞

『防災とダム 課題や危うさ忘れるな』

近畿各府県を流れる淀川水系で予定される大戸川ダム(大津市)の本体工事が動き出す。大戸川ダムが洪水時に水位を下げる効果は、淀川の大阪府枚方市で20センチあまり。完成には10年かかり、堤防の強化こそ急ぐべきという専門家の声も少なくない。ダムについては、愛媛県で「緊急放流」を巡る裁判が続いている。放流で下流域の被害が拡大したとして、被災者が国と地元自治体に損害賠償を求めている。あらゆる方策で防災に努めるのは当然だが、ダムの功罪の見極めをおろそかにしてはならない。

『「人新世」 地球の限界を考える』

人類が地球に影響を与えた時代を「人新世」と名づけ、地質時代の正式な区分とすることを国際組織が検討している。「じんしんせい」、あるいは「ひとしんせい」と呼ばれる。地球の歴史で、現在は1万1700年前から続く「新生代第四紀完新世」にあり、ここから人類の活動が地質に刻まれた時代を独立させようということだ。核実験による放射性物質、プラスチックなどが地層に残り、地球規模で変化が起きた1950年代を、人新生の始まりとする考えが有力。地球の破壊ピードを遅らせ、破局を遅らせるには何をすべきか。「人新生」を手がかりに、地球的視点で私たちの生き方を考えてみよう。

産経新聞

『サイバー防衛 自衛のため攻撃力保有を』

米国と日本、北大西洋条約機構NATO)、欧州連合EU)、英国やカナダなどで機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」構成国が、サイバー空間での中国の無法行為を一斉非難した。日本は米英などの声明を強く支持。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の報告書は、日本のサイバー、デジタル分野での総合力は主要国中最下位グループだと指摘した。サイバー攻撃への対処で日本が弱い環になってはいけない。サイバー分野ばかりの防衛策では攻撃を防ぐのは難しい。抑止効果を生む攻撃能力も培う必要がある。

雇用調整助成金 安全網の財源確保を急げ』

厚生労働省は、雇用調整助成金の上限額や助成率を引き上げた特別措置を、今年末まで延長する方針だ。コロナ禍の収束が見通せない中、雇用の安全網として助成金の特例延長は当然といえる。ただ、財源枯渇の恐れがあるため、必要な財政確保も急ぐべきだ。本助成金は、経営悪化の企業が従業員の雇用を維持した場合に助成される。今年の労働経済白書では、特例措置で昨年4~10月の完全失業率を2.6%ポイント抑える効果があったとする。必要に応じ、国庫負担なども柔軟に検討し、雇用の安全網を整備すべきだ。

東京新聞

『教育改革 近道も特効薬もない』

教員免許更新制が廃止される見通しだ。安倍晋三政権当時の有識者会議での提言に基づき、不適当な教員を排除することを含め、指導力向上の看板政策としていた。三十時間以上の講習は、教師への負担が大きく、中には免許を更新せず、人出不足に拍車がかかった。採用試験競争倍率も下がっている。大混乱を招いた大学入学共通テストへの英語民間試験と記述式問題導入も、7月末に断念している。派手な改革の頓挫は、長期的な視点が必要な教育に、近道も特効薬もないことを教えてくれる。

毎日新聞

『子宮移植の容認 倫理・医療面で問題多い』

日本医学会の検討委員会が「子宮移植」について容認する報告書をまとめた。海外では今年3月時点で、85例の子宮移植が実施され、40例で出産が報告されている。ただ、倫理と医療の両面で問題が多い。倫理面では、生命維持に必須ではない臓器移植にあたること。医療面では、ドナーも移植を受ける側も手術のリスクが高く、免疫抑制剤使用の胎児への影響が分からない。自由意志の尊重にも疑念が残る。生命倫理に深く関わる問題について、国民の理解が醸成されているとは言いがたい。移植医療のあるべき姿から議論しなければならない。

『コロナと財政見通し 危機隠す見せかけの改善』

菅義偉政権が基礎的財政収支の見通しを公表した。新型コロナ感染症の影響から、黒字化は2029年度にずれ込むとされていたが、今回は2年も前倒しされた。改善の根拠としては、年3%を超す高い経済成長が長期間続くことを前提としている。国民生活を支える支出を惜しんではならないが、選挙目当ての放漫財政は許されない。菅政権は現実を踏まえ、財政立て直しの道筋を描きなおすべきだ。高収益企業や富裕層への課税強化も検討が必要だ。コロナ化で深刻化した格差是正につながるはずだ。

読売新聞

『中国のIT企業 共産党統治の道具と化すのか』

中国が国内IT企業への統制を強めている。欧米や日本も巨大IT企業が有利な立場での取引を乱用したり、課税逃れがないよう、注視している。中国の規制は、日米欧とは異なる。習近平国家主席は「企業は中国共産党と一心同体でなければならない」と指示している。自由経済や法の支配を重視する日米欧の価値観とは相容れない一党独裁下での統制は、いずれ限界があることを習氏は認識ずべきだ。中国進出の外国企業も統制強化に直面している。日米欧は不当な規制に断固反対の姿勢を示さねばならない。

『大学入試改革 現場の声軽視が失敗を招いた』

有識者会議の提言を受け、荻生田文部科学相が、大学入学共通テストへの記述式問題と英語民間試験の導入を断念すると表明した。記述式で思考力や表現力を問い、英語の技能をバランスよく測ることに、多くの教育関係者も異論はないだろう。ただ、50万人近い受験生が一斉に受ける共通テストに導入する場合に、公平性をどう確保するか解決しておくべきだった。有識者会議は、高校生や教員からの意見を聞き、大学へのアンケートを実施した。現場の意見を改革に生かしてほしい。

令和3年8月1日の社説

朝日新聞

『五輪折り返し 安全・安心を見直して』

五輪が折り返し地点を過ぎた。問題は、選手が持てる力を存分に発揮できる環境を、主催者側が物心両面で整えることだ。自分の力ではどうしようもない理由で制約を受ける選手が増えないよう、今後も感染対策に万全を期さねばならない。ウイルスが国内に入ること、そして外に広がることを防ぐという約束はどこまで果たされているか。酷暑対策も不手際との批判を免れない。アピールポイントだった運営能力や大会の理念そのものに疑問符がつくことが、開会後も相次ぐ。主催者の姿勢と責任は最後まで問われ続ける。

産経新聞

熱中症とコロナ 万全の警戒で医療を守れ』

熱中症で救急搬送される人が増える時期である。医療現場は今、新型コロナウイルスの感染拡大で、崩壊の危機に瀕している。熱中症は自らの心がけで防ぐことができる。日中はできるだけ外出を控え、暑さを避けて過ごす。距離を2メートル以上とれるときはマスクを外す。水分と塩分を適切に補給する。リスクが高い高齢者や小児には目を配りたい。このような心がけで、新型コロナの最前線で戦う医療職に対する、ささやかな協力を惜しんではならない。

『金メダル最多 量産の背景冷静な分析を』

日本の金メダル獲得が、史上最多となった。海外勢の調整不足が指摘されている。対照的に日本勢は大会期間中も強化拠点に宿泊するなど、万全なサポートを受けて競技に臨んでいる。「地の利」がもたらした金メダルとしても、結果を出した選手たちを称えたい。日本勢の躍進には、国からの強力な支援と、国とスポーツ界の連携がある。戦略の勝利と言っていい。これを一過性の成果に終わらせず、社会でのスポーツの位置づけ、価値を国民に示し、競技団体へ長期的な支援の枠組みを構築していくべきだ。

東京新聞

『週のはじめに考える 半年前に戻ってほしい』

ミャンマーの国軍がクーデターで国民民主連盟(NLD)から無理やり政権を奪取したのは、二月一日。半年で九百人を超す市民が国軍の銃撃に倒れ、五千人以上が拘束されています。NLDや少数民族などが挙国一致政府(NUG)を結成するも、国家運営は国軍の手中にあり、国民は銃声に怯え続けています。コロナ禍で連日千人超が死亡し、医療は崩壊。最大都市ヤンゴンなどの路上には、感染者が溢れています。祖国の状況に水泳男子アスリート、ウィン・テット・ウーさんが国軍に抗議し、東京五輪をボイコットしました。五輪出場が確実だったものの、四月に参加拒否を表明しました。ウーさんは国軍に射殺された当時十九歳の女子テコンドー選手チェーズィンさんの死を悼んでいます。彼女は抗議活動に加わり、射殺される三日前には「わが身を反軍運動にささげる」とのメッセージを残しています。ウーさんは「アスリートには高度なパフォーマンスだけではなく、高い倫理観も求められるのです」と話します。「民主的なNUGをミャンマー政府として承認してほしい」。それが日本への期待です。「四年後のパリ五輪で、自由で民主的な祖国の代表選手になりたい」。ウーさんのこの願いをなんとかしてかなえてあげたいものです。

毎日新聞

東証の市場再編 経営の質を高める契機に』

来年4月、東京証券取引所は、大企業向けの「プライム」、中堅企業向けの「スタンダード」、新興企業向けの「グロース」の3市場に再編する。各市場の位置づけを明確にし、投資を呼び込む狙いだ。現在、東証全体の上場企業の約6割が一部に上場している。業績不振や時価総額が小さいなど、海外投資家から企業価値の見極めづらさが指摘されている。企業は、「プライム上場」という看板やプライドにとらわれず、規模や体力に見合う市場を選ぶことだ。再編を成功させなければ、海外との競争には生き残れない。

東京五輪の前半戦 無観客でも伝わった健闘』

東京五輪が開幕し1週間。新型コロナウイルス感染対策で選手や関係者の行動が厳しく管理される異例の大会となった。不自由な環境の中、ストレスから試合棄権した選手もいた。将来の五輪像を、新競技に垣間見るシーンがあった。仲間と勝負を楽しむ自由な雰囲気を感じさせた。テレビ観戦でも選手の健闘ぶりは十分伝わる。感染が急拡大している中、引き続き感染防止のルールは徹底しなければならない。

読売新聞

「桜」不起訴不当 検察は再捜査に全力を尽くせ』

桜を見る会」の前夜祭を巡り、東京第1検察審査会は安倍前首相を不起訴処分としたことに、不起訴不当と議決した。会費の不足分を安倍氏側が補填した問題に、捜査が不十分で納得がいかないと指摘。検察は、参加者に寄付を受けた認識がないと判断し、安倍氏を不起訴としていた。安倍氏は国会で、事実と異なる答弁を計118回していたという。不誠実な答弁が国民の疑念を招いたのではないか。後援会関係者を多数招き、「公私混同」との批判もあった。政治家は、国民から厳しい視線が注がれていることを自覚し、襟を正すべきだ。

『子供とコロナ 大人が注意して感染を防ごう』

厚生労働省によると、昨年は1割を下回っていた20歳未満の感染が、今年3月以降は1割以上に増加した。厚労省の研究班によると、子供の感染経路の7割は家庭内で、そのうち父親からが半数近くを占めた。周囲の大人が基本的な感染予防対策を徹底することが肝要である。幼い子供は体調変化を正確に伝えられないため、状態を良く見て、早めに医療機関を受診すべきだ。さらにコロナ禍の長期化で、精神的なストレス下にあることも心配だ。よく眠れないなど、子供のSOSを受け止めることが大切だ。

令和3年7月31日の社説

朝日新聞

『宣言地域拡大 根拠なき楽観と決別を』

新型コロナの感染拡大により、政府は東京、沖縄に加え、埼玉、千葉、神奈川、大阪に緊急事態宣言地域を拡大すると決めた。ワクチン接種が各世代に行き渡るにはまだ時間がかかる。世界で猛威を振るうデルタ株の感染力の強さに、ワクチン接種が進む国でも対応に苦慮している。東京に宣言が出されて2周間経過したが、効果はみられない。これまでの判断に誤りがあれば認め、根拠なき楽観を廃止し、国民に協力を求めるときだ。首相はその先頭に立つ覚悟があるか、問われている。

『コメ先物上場 不透明な議論を改めよ』

2018年からコメの生産調整が廃止され、農家は需給を予想して生産量を決めるようになった。コメの先物取引は、価格変動リスクが避けられ、農家と流通業双方にメリットがある。農家の経営見通しも立てやすくなり、コメの安定供給につながる。大阪堂島取引所は本上場を申請したが、農水省は否定的な姿勢だ。看過できないのは、農水省自民党農水族議員と密室で議論しただけで、不認可の方向性が決まったことだ。不透明な政策決定過程を改めなければ、国民の農政不信は払拭できない。

産経新聞

『緊急事態拡大 宣言下の悪平等に陥るな』

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、首都圏と大阪、沖縄に緊急事態宣言が発令されている。期限は8月31日まで。北海道など5道府県には蔓延防止等重点措置が適用される。漫然と地域を拡大し、期限延長しても好転は望めない。宣言地域を対象に、ワクチンの優先接種を進めるべきだ。また、若年層のワクチン接種を促進するため、接種による何らかの特典を設けるのも一つの手である。バイデン政権は政府職員に接種を呼びかけるため、報奨金を出すよう州や市に呼びかけた。悪平等に陥っている場合ではない。

『五輪の難しさ 選手の奮闘に敬意を払う』

東京五輪での有力選手の苦戦が目に付く。過酷な状況で競技に臨む選手たちには、日本勢、海外勢を問わず深い敬意を表したい。4年に一度、あるいは一生に一度の舞台に立つため、選手たちは自己を厳しく律してきた。コロナ禍にも立ち止まらず、世界各地から東京に集ったこと自体に大きな意味がある。後半戦も、彼らの笑顔や涙に共感を寄せ続けたい。

東京新聞

「桜」不起訴不当 不信を拭う再捜査を』

桜を見る会」を巡る、安倍晋三前首相に対する検察審査会の判断は「不起訴不当」だった。検審制度は、検察の不起訴判断に対し、民意を反映させ、適性を図ることを目的とする。検察は再捜査に動き出す。「桜を見る会」前日の夕食会で、安倍氏側が補填した経費が寄付に当たるとして、公職選挙法違に反する疑いと、政治資金規正法違反の疑いだ。権力の私物化も目に余る。議決書に「政治家はもとより総理大臣であった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない」とあり、多くの国民が突きつける怒りである。

『緊急宣言を拡大 危機感共有へ力を尽くせ』

政府が、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、四府県に緊急事態宣言を追加発令することを決めた。対策分科会の尾身茂会長は感染急増の要因として、コロナ慣れや自粛疲れ、デルタ株の増加、夏休みお盆期間、五輪開催を挙げた。菅義偉首相は、楽観論を振りまくだけで、それでは国民に危機感は伝わらない。政府は正確な感染状況と、拡大防止の対策、国民への協力要請などを示す必要がある。そして希望者全員がワクチン接種できるよう、確保と適正な配分に努めなければならない。

毎日新聞

安倍氏の不起訴「不当」 捜査徹底が検察の責任だ』

桜を見る会」前夜祭への安倍晋三前首相の関与を裏付ける証拠はないと判断したことに、検察審査会は「不当」と議決した。参加者の会費で賄えなかった部分を、安倍氏側が補填したことから、公職選挙法違反となる有権者への寄付に当たる疑いがある。東京地検特捜部は、真相を解明しなければならない。安倍氏にも説明責任が改めて問われる。検察審議会で「首相だった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない」と付言されたことを、安倍氏は重く受け止めるべきだ。

『全国に広がる第5波 楽観改め対策立て直しを』

緊急事態宣言の対象地域が、埼玉や大阪など新たに4府県に拡大される。政府はワクチン頼みの楽観姿勢を改め、対策を立て直すべきだ。専門家は「危機感を共有できていないことが最大の問題」と指摘する。変異株の流行や、40〜50代の重症化が目立ちはじめ、医療体制の逼迫が懸念される。分科会の尾身茂会長は五輪の影響に言及し、「すべきことはすべて全力でやることが、政府や大会組織委員会の当然の責任だ」と述べた。菅義偉首相は率先して、責任を果たさなければならない。

読売新聞

三菱電機新体制 閉鎖的な風土を改められるか』

三菱電機は創立100周年という節目を迎え、新たな経営態勢を発足させた。新社長の漆間啓氏は、閉鎖的な企業風土を根本から改める重い課題に、着実に結果を出していくしかない。鉄道用車両用の空調設備で、30年以上にわたり、不正検査が行われていたことが問題となり、過労やパワハラによる社員の自殺なども明るみに出ている。上下関係が厳しく、モノが言えない企業風土が不祥事の原因だと指摘されている。各部門独立性が高いことが、社内の風通しを悪くしているとされる。組織体制の見直しも検討課題だろう。

『緊急事態宣言 緩みは五輪のせいではない』

東京五輪で日本勢の快進撃が続く。日本勢だけでなく、海外勢の奮闘にもエールを送りたい。一部では、新型コロナの感染拡大を五輪開催に結びつける意見があるが、筋違いだろう。度重なる緊急事態宣言による自粛の緩みやワクチン接種の遅れ、そして重症化しないと安易に考える若者の増加が問題だ。今大会は、感染防止を最優先し、大半は無観客で行われている。これまで、競技会場や選手村で大きな集団感染は起きていない。今後も移動制限などを徹底し、五輪から感染を広げることがないようにしてもらいたい。

令和3年7月30日の社説

朝日新聞

『温室ガス削減 具体策示して協力促せ』

政府が温室効果ガス削減に取り組む計画案をまとめた。2030年度に13年度比46%削減を達成するため、産業部門は現行の7%から37%に、家庭部門は39%から66%へと削減率を引き上げた。家庭や企業が取り組む具体的な施策と目標を詰め、行動しやすい情報を提供しなければならない。二酸化炭素排出量に価格をつける「カーボンプライシング」の導入も検討してほしい。そして、再生可能エネルギーの最大限の活用を進められる施策も求められる。将来のために何を優先すべきか、考えねばならない。

商業捕鯨3年 官依存からの脱却を』

商業捕鯨が今年で3年を迎えたが、鯨肉の卸売市場規模は年25億円程度なのに対し、昨年度の水産庁補助金は51億円と補助金漬けで、商業とは名ばかりだ。捕鯨業の中核を担う共同船舶が後継船の建造計画を決め、その費用は融資やクラウドファンディングでまかなう。「官製捕鯨」からの脱却として評価できる。ただ、後継船の仕様に必要とは思われない南極海操業の機能を持たせるという。採算も不透明だ。商業捕鯨継続には補助金からの脱却と、国際社会の理解を得るための努力が必要である。

産経新聞

北方領土上陸 対露制裁の発動が必要だ』

ロシアのミシュスチン首相が26日、北方領土択捉島に入り、実効支配を誇示した。日本以外からも投資を呼び込もうと、関税などを減免する意向も示した。日本固有の領土である四島の不法占拠を固定化しようとする動きで、政府は、ロシアに制裁を発動すべきだ。プーチン政権は、昨年、憲法改正で領土の割譲や割譲の呼びかけを禁じた。日本はロシアの揺さぶりに動じることなく、毅然とした態度を貫くことだ。北方領土での甘い対応は、中韓両国が尖閣諸島竹島を巡り増長しかねない点も銘記すべきだ。

『コロナと五輪 選手の活躍を家で観よう』

新型コロナウイルスの感染拡大を東京五輪に結び付けるのは間違いだ。新たな感染者数は、2週間前の状況を反映するものである。日々の熱戦に、世の中は興奮している。開会式の平均世帯視聴率は令和のテレビ番組最高の56.4%(関東地区)を記録した。五輪開催に否定的だった各紙やテレビ局も連日、紙面や中継で大展開している。彼らの手のひらを返させたのは国内外の選手の、圧倒的な競技力そのものだ。選手の活躍を家で観よう。五輪の熱戦に触れることが、感染抑止に寄与するなら、好循環と言える。

東京新聞

『真夏の五輪 拝金主義を見直さねば』

猛暑から、東京五輪のテニス競技の開始時刻が変更になった。真夏の五輪開催は、巨額の放映権料を負担する米メディアの意向とされる。これでは「アスリート・ファースト」ではなく「テレビ・ファースト」だ。東京都は招致活動の際、この時期は「晴れる日が多く温暖」「アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な機構」PRしていた。無責任な虚言と言わざるをえない。国際オリンピック委員会は拝金主義を見直し、テレビ局への過度な依存を改めるべきだ。

『遅れる飲食支援 地域の灯守り抜きたい』

コロナ禍において、国や自治体の支援が滞り、飲食店の苦境が鮮明となっている。資金は準備できているが、実際の支援が届かない。予算がスムーズに支援に回らないのは、国と実務を行う自治体との連携不足だ。国と自治体は早急に問題点を洗い出し、即効性の高い支援の枠組みを策定すべきである。飲食店は商文化に潤いをもたらす「地域の灯」だ。この灯を消さないためにも、地域の人々の協力も欠かせない。テークアウトの利用など、小さな積み重ねが、コロナ禍から地域を守る道へとつながるはずだ。

毎日新聞

世界遺産に縄文遺跡群 自然との共生知る機会に』

国連教育科学文化機関(ユネスコ)が「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産への登録を決めた。日本最大級の縄文集落跡である青森県三内丸山遺跡など4道県の17遺跡で構成される。狩猟や漁労、採集をしながら定住生活を送り、自然環境に適応した持続性のある社会を形成していた。近年、「縄文ブーム」といわれるが、遺跡そのものには目が向けられなかった。縄文遺跡は全国各地に9万件あるという。身近にある遺跡に興味を寄せ、コミュニティーの歴史を考える機会になるはずだ。それが文化財保護にもつながる。

『米中の外交高官協議 対話積み重ね緊張緩和を』

国務省のシャーマン副長官が、中国の王毅国務委員兼外相や謝鋒外務次官と個別に会談した。今回は双方が緊張緩和の必要性を認識したのだろう。ただ、双方が関係悪化の原因を相手側に求め、従来の主張を繰り返したことは、溝の深さを示している。シャーマン氏は「国際秩序を損なう中国の行動」を批判。中国側は特に台湾問題には米国の動きをけん制した。国際協調を重視するのが大国のあるべき姿だ。米中は対話を積み重ね、対立を制御する努力を続けなければならない。

読売新聞

『全国高校総体 困難乗り越えた成果の発揮を』

全国高校総合体育大会(インターハイ)が始まった。2年ぶりの開催となる。新型コロナウイルス感染症の影響で、学校生活が制約される中、日頃の努力の成果を十分に発揮してほしい。授業や体育祭などの行事、部活動が制限される中、あきらめずに練習し出場を果たした選手たちには誇りを持ってほしい。課題は感染を防ぎ、安全に大会を行うことだ。31日には、文化部のインターハイ「全国高校総合文化祭」も2年ぶりに開催される。同じテーマに取り組んできた全国の仲間と交流できる良い機会になるだろう。

『国家安保局 政府一体で危機に対処せよ』

首相を議長とする国家安全保障会議の事務方トップである国家安全保障局長に、秋葉剛男前外務次官が就任した。米中双方の政策を熟知しているとされる。中国は経済・軍事両面で国際秩序を混乱させ、北朝鮮やロシアは軍事力を増強させている。国家安保会議の役割は一段と増すばかりだ。最優先の課題は、経済安全保障への対応だ。主要国は、重要な技術やデータの囲い込みを進めている。サイバー攻撃への対処も必要だろう。政府一体で戦略を練り、対処する態勢を強化することが肝要である。